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灰と花、届かない場所で  作者: LEON
第四章 逃避行
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「足がつく」

北海道の小さな港町に落ち着いて、二週間ほどが経った。


偽名を使い、日雇いの漁港の仕事に紛れ込む。ゆずも、近くの旅館で住み込みの仲居として働き始めていた。慣れない土地、慣れない生活。それでも、少しずつ落ち着きを取り戻していく実感があった。


「――ここなら、もう大丈夫かもね」


仕事終わり、宿の近くの堤防で並んで座りながら、ゆずがぽつりと言った。


「まだ分からねえよ」


「そうだけど……ちょっとだけ、安心してもいいでしょ」


その笑顔に、俺も少しだけ、気が緩んだ。それが、間違いだったのかもしれない。


数日後の夜、宿の裏手で、見知らぬ男二人に声をかけられた。


「――神田咲亞、だよな」


偽名を使っているはずなのに、本名を呼ばれた瞬間、背筋が凍った。


「人違いだ」


「隠さなくていい。黒田の名前で来た」


男たちの手が、懐に伸びる。得物を抜く気配だった。


――どこで、足がついた。


疑問より先に、体が動いた。宿泊記録か、目撃情報か、あるいは他の何か。原因を考える余裕はなかった。今は、この場を切り抜けることだけに集中するしかない。


一人目が距離を詰めてくる。動きは荒く、実戦慣れしていない。焦って踏み込んだ分だけ、隙が大きい。


その隙を突き、顎を跳ね上げる一撃を叩き込んだ。もう一人が慌てて得物を構え直すが、狭い路地では大振りの武器は使いにくい。懐に潜り込み、みぞおちへ拳を叩き込む。


崩れ落ちる二人を見下ろしながら、俺は荒い息を整えた。


「――咲亞!」


駆けつけたゆずが、俺の無事を確認して、安堵の息を吐いた。


「大丈夫、勝ったから」


「そうじゃない。また、見つかったってことだよ」


その一言に、浮かれていた気持ちが、一気に冷えた。


「――ここも、離れるしかねえな」


倒れた男たちが息を吹き返す前に、俺たちは荷物をまとめ、その夜のうちに港町を出た

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