「隠蔽」
静まり返った部屋の中、最初に動いたのは、意外にも普段は軽口ばかりの若い衆の一人だった。
「――お、おい、しっかりしろ!」
その声で、時が動き出す。だが、その場にいた誰もが顔面蒼白で、指示を出せる者などいなかった。組長を、殺した。しかもその場にいたのは、全員こちら側の人間だけだ。
「――俺に、電話させてくれ」
血の気の引いた顔で、俺はそれだけを絞り出した。
亮を呼び出すと、彼は電話越しに、落ち着いた声で応じた。
「――やったのか」
「……はい」
短い沈黙のあと、亮は静かに言った。
「分かった。今から言う通りにしろ。誰にも聞かれるな」
深夜、亮の指示のもと、俺たちは事の隠蔽に動いた。
「現場はそのまま残すな。全員の指紋、痕跡、徹底的に消せ。それと――」
亮は電話越しに、淡々と続けた。
「遺体は、組長が懇意にしてた解体業者の伝手を使って処理しろ。奴らなら、面倒事の処理には慣れてる」
「そんな伝手、俺たちにあるんですか」
「俺が繋いでやる。心配すんな」
亮の指示は的確で、迷いがなかった。パニックになりかけていた俺たちにとって、それがどれほど心強かったか分からない。
「幸い、あの場にいたのは組長本人と、うちの人間だけだ。組の連中には、こう伝えろ。『組長は視察の後、少人数で飲み直すと言って、供の者も先に帰らせた。その後の足取りは分からない』。事実、随行の連中は現に先に帰ってる。話の筋としちゃ、無理はねえ」
「――それで、通るんですか」
「通す。多少強引でも、筋さえ通ってりゃ、向こうも簡単には崩せねえ。あとは、お前らが余計なことを喋らないことだけだ」
亮の指示通りに、俺たちは動いた。現場の痕跡を消し、口裏を合わせ、震える手を押さえながら、何事もなかったかのように振る舞い続けた。
「――大丈夫だ。俺が全部、うまく収める」
電話越しのその一言に、俺たちは救われた気持ちになった。
数日間、表向きは何事もなく時間が過ぎていった。組長が視察後に姿を消したという話は、組織内でも「揉め事に巻き込まれたのでは」という噂で処理されているらしかった。
「――うまくいってる。少なくとも今のところは」
亮からの連絡に、俺は少しだけ、息をつくことができた。
このまま、何事もなく収まってくれればいい。そう願わずにはいられなかった。




