お節介の理由
眠れないまま迎えた朝は、やけに白かった。
教室の窓から差し込む光がやたらと眩しくて、俺は机に突っ伏したまま、目だけを薄く開けていた。昨日見たニュースの映像が、瞼の裏にこびりついて離れない。
「――神田くん、聞いてる?」
声をかけられて、ようやく我に返る。斎藤ゆずが、心配そうな顔でこちらを覗き込んでいた。
「……何だよ」
「何だよ、じゃないよ。さっきから二回も同じこと聞いてるのに、無視するから」
「悪い。聞いてなかった」
素直に謝った俺に、ゆずのほうが逆に驚いたような顔をした。いつもなら適当にあしらって終わるところを、今日はそんな気力すら湧いてこない。
「……何かあった?」
「別に」
「顔、真っ青だよ」
「うるせえな」
いつもの調子で突き放そうとしたが、声に力が入らなかった。ゆずは何かを察したのか、それ以上踏み込んではこなかった。ただ、隣の席に座ったまま、じっとこちらを見ていた。
その視線が、妙にいたたまれなかった。
昼休み、屋上に続く階段の踊り場で一人になっていると、ゆずが弁当を片手に登ってきた。
「ここ、良い?」
聞いておきながら、返事を待たずに隣に座る。相変わらず遠慮のない奴だ。
「お前、何でそんなに構ってくんの」
ずっと聞きたかったことを、思わず口にしていた。ゆずは少し驚いた顔をしたあと、卵焼きを一つ頬張ってから答えた。
「昔ね、お兄ちゃんがいたの」
初耳だった。ゆずの家族の話なんて、聞いたことがなかった。
「今は?」
「いない。中学の時に、荒れて。家出して、それきり」
淡々とした口調だった。だが、その奥に沈んでいる何かを、俺は感じ取ってしまった。
「……見つかってないの」
「うん。だから、かな」
ゆずは少し笑って、こちらを見た。
「神田くんを見てると、放っておけないの。お兄ちゃんも、多分こんな感じだったから」
自分の家族の穴を、俺に重ねているだけなのかもしれない。そう思うと、少し腹立たしい気もした。だが、それを口にする気力もなかった。
「重い話、ごめんね」
「別に」
それだけ言って、俺は視線を逸らした。ゆずも、それ以上は何も言わなかった。
放課後、誰もいない図書室の隅で、俺は一人、古い新聞の縮刷版をめくっていた。担当の司書に不審な目で見られたが、無視した。
十六年前の紙面。行方不明者を伝える小さな記事を、ようやく見つけた。
『愛知県内在住の女性(当時二十四歳)、行方不明――』
写真は不鮮明で、顔の判別すらつかない。だが、間違いない。昨夜のニュースと、同一人物だ。
記事の隅、関係者のコメントの中に、聞き覚えのない団体名が小さく載っていた。当時から、その筋では名の知れた組織らしい。今は特に気に留めることもなく、俺はその名前を頭の隅に留めただけで、ページを閉じた。
まだこの時は、その名前が、これから自分の人生をどれだけ引きずり回すことになるのか、知る由もなかった。
窓の外はもう、夕陽で赤く染まっていた。
ここから少しずつ物語が動き始めます。
引き続きお付き合いいただけたら嬉しいです。




