表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
灰と花、届かない場所で  作者: LEON
第三章 対峙
17/29

「視察」

「――来月、黒田組の視察が入るってよ」


亮からその話を聞かされたのは、いつもの喫茶店でのことだった。


「視察……うちに?」


「ああ。お前がのし上がったこと、向こうの耳にも入ってるらしい。目をつけられたってことだ」


心臓が、大きく跳ねた。ようやく、その機会が巡ってくる。


「――誰が来るんですか」


「幹部連中の何人か。それと」


亮は言葉を切り、こちらの反応を窺うように、じっと目を見つめてきた。


「――組長本人も、顔を出すかもしれねえって話だ」


息が止まった。


「本当ですか」


「まだ確定じゃねえけどな。でも、可能性はある」


亮は静かにそう言うと、テーブルの上で指を組んだ。


「――咲亞。会ったら、お前、どうする気だ」


その問いに、すぐには答えられなかった。復讐を誓ってから、ずっと思い描いてきたはずだった。だが、いざ「その日が来るかもしれない」と告げられると、頭の中が真っ白になる。


「……分からない」


正直にそう答えると、亮は小さく頷いた。


「無理もねえよ。ただ――」


亮はグラスの水面を見つめながら、ぽつりと続けた。


「その日が来たら、お前は多分、自分でも制御できねえ何かに、飲まれる。俺はそう思ってる」


分かったような、分からないような言葉だった。だが、亮の言葉には、いつも妙な説得力があった。


視察の日程が近づくにつれ、グループ内の空気は張り詰めていった。掃除、挨拶の練習、序列の再確認。普段は緩い連中も、この時ばかりは真剣な顔をしていた。


「――緊張してんの?」


蘭に聞かれて、俺は素直に頷いた。


「分からねえ。ただ、何か、良くない予感がする」


「らしくないこと言うのね」


蘭はそう茶化しながらも、いつもより少しだけ真剣な目でこちらを見ていた。


「――何かあったら、隣にいるから。それだけは忘れないで」


その言葉に、少しだけ救われた気がした。


その夜、ゆずにも短くメッセージを送った。


『しばらく、忙しくなる』


それだけの言葉に、ゆずはすぐに返信をくれた。


『無理しないでね。何かあったら、ちゃんと言って』


いつもの、変わらない優しさだった。だが、なぜかその優しさが、今はどこか遠くに感じられた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ