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灰と花、届かない場所で  作者: LEON
第二章 父の影【潜入】
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蘭との距離

トップに立ってから、蘭と二人きりで過ごす時間が、自然と増えていった。


「今日も付き合えよ」


そう言って、蘭は当然のようにボクシングジムへの道を歩き出す。俺はその後ろを追いながら、いつの間にか、それが日課になっていることに気づいた。


「――お前、俺のことどう思ってんの」


ミット打ちの合間、ふと思いついたことをそのまま口にした。蘭は一瞬手を止め、それから呆れたように笑った。


「藪から棒に何よ」


「いや、深い意味はねえよ。ただ気になった」


「――そうね」


蘭はミットを下ろし、少し考えるように視線を泳がせた。


「弟分、みたいなもんかしら。危なっかしくて、放っておけないっていう意味では」


「弟分ね」


「文句あるの」


「――いや」


正直、それ以上でもそれ以下でもない関係性が、今の自分には心地よかった。蘭との間にあるのは、恋愛感情とは少し違う、戦友のような、あるいは家族のような、不思議な信頼だった。


「――ゆずとは、うまくやってんの」


不意に聞かれて、俺は素直に頷いた。


「ああ。少し前に、ちゃんと付き合うことになった」


「そう」


蘭はそれだけ言って、また笑った。祝福とも、羨望とも取れない、複雑な笑い方だった。


「大事にしなさいよ。アンタみたいな生き方してる奴に、そこまでついてきてくれる子、そうそういないんだから」


その言葉には、いつもの軽口とは違う、確かな重みがあった。


その夜、久しぶりに顔を出したグループの溜まり場で、俺は今の自分の立ち位置を、改めて実感していた。


トップとしての信頼。蘭という、気の置けない戦友。ゆずという、真っ直ぐに想いを向けてくれる存在。


何もなかった十六年間の空白を埋めるように、いつの間にか、俺の周りには「居場所」と呼べるものが増えていた。


だが同時に、頭の片隅では、あの古参の男の言葉が、今も燻り続けていた。


――強さってのは、時々、人を変えちまうから。


まだこの時は、その言葉の意味を、実感として理解してはいなかった。


母を奪った男――俺の父親に、まだ会ってすらいない。復讐という当初の目的は、今の充実した日々の中で、少しずつ輪郭を失いかけている自分にも、薄々気づいていた。


だが、それを見失うわけにはいかない。


窓の外、夜の街を照らす明かりを見つめながら、俺は改めて、自分がここに立っている本当の理由を、胸の奥に刻み直した。

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