トップへ
「異論のある奴は?」
溜まり場に集まった面々を見渡しながら、これまでのリーダー格だった男がそう言った。誰も、手を挙げなかった。
「――今日から、咲亞がこのグループのトップだ」
拍手というより、どよめきに近い歓声が上がった。数ヶ月前、ただの喧嘩っ早いガキとして飛び込んできた俺が、いつの間にかこの場所の頂点に立っている。
自分でも、まだ実感が湧かなかった。
「――おめでとう、って言うべきなのかしらね」
輪の外れで、蘭がグラスを掲げながら笑っていた。
「素直に喜べよ」
「喜んでるわよ。ちゃんと」
軽口を交わしながらも、蘭の目には、どこか誇らしげな色が浮かんでいた。ここまで自分を鍛えてくれた張本人が、隣で笑ってくれている。それだけで、今日という日の重みが少しだけ増した気がした。
その夜、久しぶりにゆずへ連絡を入れた。
『話したいことがある』
そう送ると、すぐに既読がついた。
翌日、いつもの高架下で待っていると、ゆずが小走りにやってきた。
「――どうしたの、急に」
「グループの、トップになった」
言葉少なにそう告げると、ゆずは少しの間、複雑そうな顔をした。喜んでいいのか、心配していいのか、決めかねているような表情だった。
「……それって、危ないことなんじゃないの」
「危なくない、とは言わない」
正直にそう答えると、ゆずは小さく息を吐いた。
「でも、止めても聞かないんだよね」
「――悪い」
「謝らないでいいって、前も言ったでしょ」
ゆずはそう言って、少しだけ表情を和らげた。
「――ただ、一つだけ、約束してほしいことがある」
「何だよ」
「ちゃんと、私に隠さないで。危ないことしてても、居場所だけは教えて。それだけでいいから」
真っ直ぐな目だった。俺のような人間に、これだけ真っ直ぐな想いを向け続けてくれる人間がいることが、未だに信じられなかった。
「――分かった」
短くそう答えると、ゆずは少し照れくさそうに笑った。
「じゃあ、ちゃんと、付き合ってるってことでいいんだよね?」
不意打ちのような一言に、思わず言葉に詰まった。だが、否定する理由もなかった。
「――ああ」
短い返事だったが、ゆずはそれだけで十分だというように、嬉しそうに頷いた。
夕暮れの中、高架下を吹き抜ける風が、いつもより少しだけ、暖かく感じられた。




