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灰と花、届かない場所で  作者: LEON
第二章 父の影【潜入】
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「異論のある奴は?」


溜まり場に集まった面々を見渡しながら、これまでのリーダー格だった男がそう言った。誰も、手を挙げなかった。


「――今日から、咲亞がこのグループのトップだ」


拍手というより、どよめきに近い歓声が上がった。数ヶ月前、ただの喧嘩っ早いガキとして飛び込んできた俺が、いつの間にかこの場所の頂点に立っている。


自分でも、まだ実感が湧かなかった。


「――おめでとう、って言うべきなのかしらね」


輪の外れで、蘭がグラスを掲げながら笑っていた。


「素直に喜べよ」


「喜んでるわよ。ちゃんと」


軽口を交わしながらも、蘭の目には、どこか誇らしげな色が浮かんでいた。ここまで自分を鍛えてくれた張本人が、隣で笑ってくれている。それだけで、今日という日の重みが少しだけ増した気がした。


その夜、久しぶりにゆずへ連絡を入れた。


『話したいことがある』


そう送ると、すぐに既読がついた。


翌日、いつもの高架下で待っていると、ゆずが小走りにやってきた。


「――どうしたの、急に」


「グループの、トップになった」


言葉少なにそう告げると、ゆずは少しの間、複雑そうな顔をした。喜んでいいのか、心配していいのか、決めかねているような表情だった。


「……それって、危ないことなんじゃないの」


「危なくない、とは言わない」


正直にそう答えると、ゆずは小さく息を吐いた。


「でも、止めても聞かないんだよね」


「――悪い」


「謝らないでいいって、前も言ったでしょ」


ゆずはそう言って、少しだけ表情を和らげた。


「――ただ、一つだけ、約束してほしいことがある」


「何だよ」


「ちゃんと、私に隠さないで。危ないことしてても、居場所だけは教えて。それだけでいいから」


真っ直ぐな目だった。俺のような人間に、これだけ真っ直ぐな想いを向け続けてくれる人間がいることが、未だに信じられなかった。


「――分かった」


短くそう答えると、ゆずは少し照れくさそうに笑った。


「じゃあ、ちゃんと、付き合ってるってことでいいんだよね?」


不意打ちのような一言に、思わず言葉に詰まった。だが、否定する理由もなかった。


「――ああ」


短い返事だったが、ゆずはそれだけで十分だというように、嬉しそうに頷いた。


夕暮れの中、高架下を吹き抜ける風が、いつもより少しだけ、暖かく感じられた。

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