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アルテアの記憶  作者: 上井みるき
研鑽の記憶
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映像トラック【入学案内】

西暦二一九二年三月二四日

『うー、狭かったよ』

「オカブ、ごめんね。でも、静止軌道駅(GEOステーション)に着くまでは、この部屋の中なら自由だから」

『うん、ありがとう(あきら)兄ちゃん』


 解放されたオカブが、嬉しそうに部屋の中を走り回る。その様子を横目に、僕は備え付けの大型モニターの前に腰を下ろし、大学の入学案内を再生した。


***


 画面いっぱいに、巨大なコロニーが映し出される。


『ご入学、おめでとうございます。当学院は、月軌道L4コロニー群に設置されています』


 ゆっくりと回転するリング型の居住区。その内側には、街並みのような景色が広がっていた。


(……ここで生活するのか)


 次の瞬間、画面は学生食堂らしき場所に切り替わる。多くの学生たちが、思い思いに食事をしながら談笑している。


『これから、皆さんが成長する舞台となります』


(へー、普通の大学もこんな感じなのかな?)


『それでは、学長からご挨拶です』


 画面が切り替わり、大柄な男性が現れる。


『入学おめでとう。学長のニコラス・マーティンだ』


 低く、よく通る声だった。


『我が学院は、宇宙を舞台に活躍する人材を育成する教育機関である。三十年前の創設以来、多くの人材を輩出してきた』


 短く言い切る。


(……三十年前)


 思わず、さっき聞いた話が頭をよぎる。


『本学院はどの国家にも属さない』


 学長はゆっくりと言葉を区切った。


『人種、国籍、出自——そういったものは、一切評価に関係しない』


 わずかに間を置いて、続ける。


『結果だけが、すべてだ』


(徹頭徹尾、実力主義ってことか)


 握りこぶしを軽く掲げるその姿は、どこか演説じみていた。


『以上だ』


 ぶつりと映像が切り替わる。


『続いて、皆さんの進路について説明します。最初の半年間は、例外なく初等科に所属します』


(全員一緒なんだ)


 画面には、訓練を受ける学生たちの姿が映る。重い装備を身に着け、真剣な表情で作業していた。


『詳細なカリキュラムについては、到着後に改めて説明します』


 再び画面が切り替わる。今度は、賑やかな広場。音楽に合わせて踊る学生、屋台のような出店。


『学業だけが、学生生活ではありません。様々なイベントやサークル活動も存在します』


 楽しそうな笑い声が画面越しに伝わってくる。


(へー、なんだか楽しそう)


 最後に、ショッピングモールの映像が映し出される。


『学業こそ本分ですが、そればかりではありません。充実した娯楽と交流もまた、良き航宙士を育みます。当校専用通貨「アスト」を賢く使い、自由な学生生活を謳歌してください』


 映像はゆっくりとフェードアウトした。


***


「へぇ、なんだか楽しそう。……ね、オカブ」

(あきら)兄ちゃん、甘いよ。娯楽施設があるってことは、それだけストレスが溜まる環境だってことの裏返しかも』

「夢のないこと言わないの」


 モニターの明かりが消えた個室には、再び静寂が戻る。


 また、スターリング博士が開発したであろう重力子の制御は完璧で、発進の加速度も地球からの距離によってかわる重力加速度も全く分からない。ただ、地上と同じ重力を感じるだけ、振動も全くなく静かだ。言われなければ、自分の部屋でくつろいでいるのと全く変わらない。

 けれど。ここはもう、地上じゃない。確実に、地球から離れていく場所だ。


 僕はゆっくりと息を吐き、ベッドに身を預ける。


(いよいよ、始まるんだ)


 最初の目的地である静止軌道駅(GEOステーション)へ思いを馳せながら、僕はゆっくり瞳を閉じた。


◎登場人物

星野(ほしの)(あきら)(15)(166cm):主人公。中学を卒業し、国際宇宙学院アストリス・アカデミーへ向かう途中。


◯オカブ:晶の通学補助用ドローン。(あきら)を兄、アルテアを姉と認識している。


◎映像の中

◯ニコラス・マーティン(男性)(54)(185cm):国際宇宙学院アストリス・アカデミー学長。


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