「コトリ、ソウテンズミ」
『【公式】明野来海 vs 西宮コトリ 〜デビュー二ヶ月の下剋上マッチ〜』
告知が出ると、ファンは沸いた。デビュー配信で宣戦布告した新人が、本当にダイヤ帯まで上がって、本当に挑んできた——この分かりやすい構図を、嫌いなVTuberファンはいない。
『コトリちゃんガチで上げてきたのか』『二ヶ月でダイヤはすごい』『でも相手はV-1の来海だぞ』『胸を借りる戦いってやつだ』
配信当日。同接は開始から四万を超え、じわじわと五万に迫っていた。
「押忍!! 西宮コトリ、参上です!! 来海先輩、今日という今日は、覚悟してください!!」
「よく来たな、コトリ。……約束通り、**全力で守りに行く**」
「望むところです!!」
◇
試合形式は、五ラウンドの一対一。
そして——一ラウンド目から、会場は驚くことになる。
「はやっ!?」『コトリちゃん速すぎん!?』『この子の詰め、二ヶ月の動きじゃないぞ』
コトリは、速かった。若い反射と、恐れを知らない詰め——そして何より、**パズルで鍛えた盤面把握**が、射線の読みに化けていた。研究も仕込んできたのだろう、来海の癖を突く動きが端々に見えた。一ラウンド目、コトリが先取。
『まさかの先制!?』『下剋上あるぞこれ』
「——いいね。**本物だ**」
来海の目が、変わった。二ラウンド目からは、経験の出番だった。コトリの速さは本物だが、速さは、読まれれば的になる。誘いの間、外しの位置取り、二手先の罠——V-1と、最強との毎週の死闘で磨いだ引き出しが、静かに開いていく。
二対一。二対二——は、コトリの意地。そして最終ラウンド。
「〜〜〜っ、まだ!! まだ、です!!」
「その粘り、上等。……でもな、コトリ」
最後の撃ち合いは、正面だった。読み合いの果てに、コンマ数秒——経験が、若さを上回った。
『MATCH SET ——WINNER:明野来海』
「————っっ、ま、負けましたぁ……!!」
『いい試合だった!!』『コトリちゃんよく食らいついた』『来海の最後の位置取りえぐい』『3-2は新人の成績じゃないよ』
がっくりと膝をつくコトリに、来海は静かに言った。
「——強かった。二ヶ月でここまで来るのは、まぐれじゃできない。……でも、届かなかった理由、分かるか?」
「……経験、ですか」
「半分正解。もう半分は——**私はまだ、負けられない理由が増え続けてる**からだ。目標も、仲間も、応援してくれる人も。……コトリも、これから増やせ。強くなるのは、それからでも間に合う」
「————っ、はい!! 次は、絶対、勝ちます!! コトリ、負けた分だけ強くなるので!! **リベンジ、予約します**!!」
「はは。予約、受け付けました」
『師弟の構図いいなあ』『新しい因縁が育っていく』『五期生の時代も近いぞ』
配信は同接五万のピークを刻み、「下剋上マッチ」は敗者の株すら上げて幕を閉じた。
◇
配信後。観戦していた者たちの反応は、それぞれだった。
「コトリ!! 惜しかった!! 姉さん相手に二本は快挙です!!」
「うぅ……悔しいですけど、コトリちゃん、かっこよかったですぅ……」
五期生組が敗者を囲んで讃える一方——フルパの通話では。
『……るい』
「はい」
『さいごの、いちあいて。**わたしの、うごき**、つかってた』
「あ、バレました? ……ええ、瑠奈さんとの毎週で覚えた引き出しです。後輩相手に、最強の技術を拝借しました」
『ん。……こうけいしゃ、そだてるの、いい。でも』
少しの沈黙のあと、囁き声が、ほんの少しだけ低くなった。
『**わたしより、つよいひとの、まね、しないで。わたしので、じゅうぶん**』
「そ、それはどういう対抗意識なんですか!?」
『? ……ふつうの、いけん』
本人に自覚のない何かが、また一つ、観測データに積もった夜である。




