「五期生、三人目」
『【Vmove's公式】五期生・三人目、デビュー決定』
公式発表の翌日、社内に新人の情報が共有された。資料を開いた燈哉は、プロフィール欄で目を止めた。
——**西宮コトリ(にちみや・ことり)**。キービジュアルは、小鳥をモチーフにした可愛らしいふわふわの衣装——羽根飾りに、ちいさな翼——を纏って、ことんと首を傾げる小柄な少女。誰がどう見ても、癒し枠である。
だが、特技の欄には、こう書いてあった。
『特技:**パズルゲーム(超特化)**。FPSも修行中。目標:**明野来海を倒すこと**』
「……ん?」
目を、こすった。読み直した。書いてあった。
「なんで俺、デビュー前の後輩に狙われてるの!?」
◇
デビュー配信当日。先輩たちは、それぞれの持ち場で新人を見守っていた。
「はじめまして! Vmove's五期生、西宮コトリ! **ふわふわなのは、衣装だけ**! よろしくお願いします!」
『見た目と自己紹介の温度差w』『癒し枠じゃないのか』『五期生は個性派揃いだな』
配信は、快調に走り出した。前半のパズルゲーム実演では、公開スコアアタックの歴代一位を**初見で**あっさり塗り替え、『この子何者!?』『パズルの申し子だ』とコメント欄を騒然とさせる。見た目は小鳥、頭脳は演算装置——ギャップの塊である。だが、この新人の本領は、そこからだった。
「コトリ、今日はご挨拶したい先輩がいます! ——四期の、明野来海先輩!!」
『お、来海の名前出た』『憧れの先輩紹介の流れ?』
「コトリはFPSで来海先輩の配信を見て、Vmove'sに入りました! 超リスペクトです! 超憧れです! ——**なので、倒します**!!」
『リスペクトの着地点ww』『宣戦布告w』『デビュー配信で四期の看板に喧嘩売る新人』
「憧れてるなら倒さないでほしい」と、モニターの前の燈哉は呟いたが、後の祭りである。コトリの宣戦布告は瞬く間に切り抜かれ、その日のトレンドに『#来海を倒す』が並んだ。
◇
騒動を受けて、急遽組まれたのが「五期生そろい踏み・あいさつ配信」である。ホストは先輩になった志穂とリツ。ここに新人コトリが乗り込む形だ。
「——というわけで、五期生が三人になりました。番長の志穂です」
「り、リツです……。コトリちゃん、ようこそぉ……」
「押忍! お世話になります先輩がた! ところで志穂先輩、来海先輩ってどれくらい強いんですか!?」
「姉さ……来海さんの強さは、その、規格外としか」
「やっぱり!! 燃えます!! コトリ、いつ挑んでいいですか!?」
「デビュー週から挑むな!!」
先輩ムーブに挑戦する志穂は、後輩の勢いに押されっぱなしだった。かつての自分を見ているようだ、と遥がアーカイブ越しに笑い転げたのは、また別の話である。
見かねたリツが、おずおずと言った。
「あ、コトリちゃん……来海先輩は、その、と、とってもお忙しいから……」
「大丈夫です! コトリ、待てます! 小鳥なので!」
「小鳥は目を離すとすぐ飛んでいくのでは?」
——と、その時。配信のコメント欄に、ざわりと波が走った。
『え』『来海きた』『本人来てるぞ』
【明野来海】:『デビューおめでとう。挑戦、いつでも受けます。ただし——私に挑むなら、まずランクを一つ上げてきてください。話はそれから』
「————っっ!! き、来ました!! 見ました今の!? コトリ、認知されました!! 絶対、絶対上げてきます!! 待っててください先輩!!」
『公式に受けて立ったw』『いい先輩じゃん』『新しい因縁が生まれた瞬間である』
初配信の同接は、二万五千。デビュー配信としては、リツの記録を上回る滑り出しだった。五期生の世代は、確実に、勢いを増している。
◇
配信後。フルパの通話は、その話題で持ちきりだった。
「いやー、元気な子が来たねえ! 志穂ちゃんが押されてるの初めて見た!」
「認知コメント、良い判断でした。姉さんの株も上がっています」
「でも燈哉、本当に挑戦受けるの? FPSで」
「受けるよ。後輩の目標にされるのは、先輩の仕事のうちだ。……それに」
燈哉は、少し笑った。
「『倒したい先輩』がいるのって——多分、幸せなことだからさ。俺にも、いるし」
『……ん。わたし、のこと?』
「わ、悪い意味じゃなくてですね!?」
『しってる。……ふふ』
通話の向こうで、微かに笑う声がした。珍しいものを聞いた、と全員が思ったが、誰も口にはしなかった。
——五期生、三人。登録者、三百五十万。恋の戦線、三つ巴。
賑やかさを増していく世界の真ん中で、物語は次の目標へ——四百万の壁へと、歩みを進めていく。




