「フルパ、夏のしめくくり」
「——それでは! V夏祭りの打ち上げ、兼、350万突破のお祝い会、兼、フルパ夏のしめくくり会を開催しまーす!」
「「「かんぱーい!」」」
会場は、いつもの防音会議室——ではなく、美咲が探してきた屋上テラス付きのレンタルスペースである。テーブルの上には、ホットプレートと、たこ焼きの材料が山と積まれていた。
規約第五条に基づき、燈哉は本日も綾芽の姿である。
「たこ焼きパーティーって、美咲の発案?」
「そう! 夏祭りで屋台やったのに、うちら自身は一回も屋台のもの食べてないなーって!」
「盲点でした。作る側は食べる側になれない……」
そして、この日一番の見ものは、瑠奈だった。
「……これ、まるいの、どうやって」
「え、瑠奈ちゃん、たこ焼き作ったことない!?」
「ない。……たべたことも、ない」
「「「たこ焼き未経験!?」」」
反町瑠奈、二十一歳。ゲームに捧げた人生に、たこ焼きの記録はなかった。かくして、フルパ全員による「瑠奈にたこ焼きを教える会」が発足した。
「いい、瑠奈ちゃん? くるっと、こう、竹串で」
「くるっと」
瑠奈の第一投は、鉄板に散った。第二投は、丸くなる前に返して崩壊した。業界最強の反射神経は、たこ焼きには通用しなかったのである。
「む、むずかしい。エイムが、きかない」
「たこ焼きにエイムの概念はないです」
だが、そこは怪物である。十個目を過ぎたあたりで、瑠奈のたこ焼きは急速に球体へと近づき、二十個目には、店売りのような完璧な球が並んだ。
「……かんせい。はんぷく、れんしゅうは、とくい」
「上達曲線がゲーマーなんだよなあ」
自分で焼いた最初の一個を、瑠奈はふうふうと冷まして、口に入れた。灰色の目が、まん丸になる。
「————おいしい」
「でしょ!!」
「じぶんで、つくったの、おいしい。……はじめて、しった」
その顔があんまり素直だったので、テラスの空気が、ふわりと柔らかくなった。
◇
日が落ちて、締めは手持ち花火である。
「大きい花火は夏祭りで見たから、締めはこっち! 風情!」
バケツに水を汲み、五人でしゃがんで、細い花火に火を移す。ぱちぱちと爆ぜる小さな光が、五つ。
「……夏、終わっちゃうねえ」
「濃い夏でした。バレて、増えて、祭りして」
「守る会が二人だった頃が、遠い昔のようです」
「ん。……わたしは、こんげつ、はいったばっかり、なのに。ずっと、いた、きがする」
「それはもう、古参ですよ。瑠奈さん」
線香花火に切り替えて、五人は無言で、落ちる火球を見守った。最後まで残ったのは、意外にも遥の一本で、「勝った……!」と拳を握った瞬間にぽとりと落ちた。
「「「あーあ」」」
「今の絶対、油断したせい!!」
笑い声が、夜風に流れていく。
(——ちなみにこの間、志穂は後輩のリツと「五期生だけの打ち上げ」をやっているらしい。『先輩として奢ってきます』と意気込んで出ていった。成長したものである)
◇
片付けが終わる頃、燈哉のスマホが震えた。社長からである。
『祭り、ご苦労だった。350万もめでたい。——ときに、一つ報せがある』
「なんだろ……え」
『**五期生、三人目のデビューが決まった**。近く発表する。……面白い子だぞ。なにせ——』
社長のメッセージは、そこで思わせぶりに切れていた。
「……なにせ、なんですか!? 気になる切り方やめてください!!」
返信に、既読だけが付いた。この社長、たまにこういう遊びをするのである。
「どうしたの、綾芽ちゃん?」
「五期生の三人目、決まったって。……どんな子だろうな」
夏の終わりの夜風の中、新しい風の予感だけが、ひゅうと吹き抜けていった。




