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「V夏祭り・ふれあいの縁日」

『——さあさあ、寄ってらっしゃい見てらっしゃい! V-ARENA夏祭り、一日目・開場やでーー!!』


コノハの口上とともに、会場の大鳥居が、ゆっくりと開いた。


その向こうから、わっと歓声を上げてなだれ込んできたのは——**二千人のファンたち**である。


揃いの浴衣姿のゲストアバターに、思い思いの動物のお面。抽選という狭き門を潜り抜けた幸運な団員たちが、いま、憧れのVTuberと**同じ空間**に立っていた。


「ほ、本物だ……本物のコノハ様が、目の前に……」


「にんにん! ようこそお客人! ほれ、握手や握手!」


「うわああああ握手できた!! 感触ある!! あったかい!!」


完全同期技術の一般開放——それは、画面のこちらとあちらを隔てていた壁が、史上初めて取り払われた瞬間だった。


(……すごい光景だな。ファンの人たちが、俺たちの作った参道を、歩いてる)


浴衣姿の来海は、屋台の並びを眺めて、少しだけ胸が詰まった。数字でも、コメントでもない。**人**が、そこにいた。


 ◇


なお、会場に入れるのは当選者だけだが、祭りの模様は**公式チャンネルの多元中継**で配信されている。射的の対戦も、お化け屋敷の悲鳴も、くじブースの交流も——各ブースのカメラが拾い、画面の向こうの視聴者は「いつか自分も当たるかも」と眺めながら盛り上がる。ふれあいと配信の、二層構造である。


昼のふれあいの部は、各所で奇跡と事件を起こしながら進んだ。


——射的屋台・spoVブース。


『いらっしゃい。……ちょうせんしゃ、うけつけちゅう』


ルールは「陽凪より多く落とせたら景品総取り」。挑戦するファンの列は参道の端まで伸び、そして全員が、十二連射の防衛の前に散った。


「つ、強すぎる……でも本物の陽凪様と対決できた……もう思い残すことはない……」


「あるでしょ!? まだ一日目だよ!?」


——お化け屋敷・五期生ブース。


「ひっく……うぅ……い、いらっしゃいませぇ……」


本気で泣きながら現れる幽霊役・リツに、入場したファンが「ごめんね!? 怖がらせてごめんね!?」と逆に謝る珍事が続発。「**客が幽霊に謝るお化け屋敷**」として、SNSで爆発的に拡散した。


——そして、くるみ割り同盟『世界征服くじ・ファン交流ブース』。


「いらっしゃいませ、団員。……くじを引く覚悟は、できていますか」


「は、はいっ、番長!!」


コードネームの幹部三人が直接接客するブースは、開場と同時に長蛇の列となった。くじを引く手が緊張で震える団員に、博士(来海)が声をかける。


「そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ。当たっても、町が征服予定地になるだけなので」


「じゅ、十連でお願いします!!」


「豪気!!」


列の中ほどにいた、猫のお面の団員が、自分の番になった時、思い切ったように早口で言った。


「あ、あの! 博士——来海さんの配信、受験の年にずっと見てて! おかげで、その、第一志望、受かりました! ありがとうございました!!」


「————」


一瞬、言葉に詰まった。


画面の向こうに、この人がいたのだ。三百五十万という数字の中の、確かな一人として。


「……おめでとうございます。その報告、今日のくじの大当たりより、嬉しいです」


「〜〜〜っ、一生ついていきます!!」


(……数字の向こうに、人がいる。当たり前のことを、俺は今日、初めて**見た**のかもしれない)


 ◇


日が暮れて——夜の部である。


昼のふれあいの部が閉場し、会場は配信ライブモードへと転換する。ステージに照明が入り、同接カウンターが、みるみる駆け上がっていく。


『——V-ARENA夏祭り、一夜目! **夏祭りライブ**、開演やでーーー!!』


一夜目のステージは、キララとおうちゃまの四期生コンビが暴れ、スカーレットのDJが会場を沸かし、和風トリオの「和」が締める構成だった。同接は開演一時間で**十一万**を突破——昼のふれあいの熱がそのまま夜に流れ込んだ、見事な数字である。


『昼の切り抜き見て飛んできた』『客が幽霊に謝るお化け屋敷の会場はここですか』『明日の抽選も当たってくれ〜〜』


ステージ袖でその光景を見ていた来海の隣に、楓が音もなく並んだ。


「……ようやっとる。昼の熱が、夜の数字になる。ええ祭りの回り方じゃ」


「ですね。……あの、楓さん。今日、ファンの人と直接話して、その」


「ん?」


「数字って、**人の集まり**なんだなって。……今さらですけど」


楓は、少しだけ目を見開いて——それから、扇子の陰で、満足そうに笑った。


「——それが分かった者から、四百万に近づくんじゃ。……のう、来海」


扇子が、ぴしりと来海に向く。


「毎晩のライブは前座よ。**最終日の歌唱ライブ、任せたぞ**。——昼に会うた、あの子らの顔を思い浮かべて歌え。数字より、ようけ響くぞ」


夜空の演出に、明日への予告花火が、ひゅるりと一輪だけ上がった。

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