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「公式には宿命のライバル」

『【緊急告知】明野来海×月影陽凪 V-1リベンジマッチ、開催決定』


両社同時の告知は、その日のうちにトレンドの一位を取った。


『きたああああ』『V-1の因縁再び』『あの大将戦をもう一度』『企業の壁を越えたガチ対決とか神運営か?』


世間の熱狂を、燈哉は複雑な気持ちで眺めていた。


(宿命のライバル、か……)


スマホが震える。当の宿命のライバルからである。


『こうしきで、あそべる。やった』


『瑠奈さん、その温度感は配信では隠してくださいね!?』


『わかってる。ほんばんは、しゅくめいの、かお、する』


『宿命の顔ってなんですか』


『こんな、かお』


送られてきたのは、真顔のクマのスタンプだった。前途多難である。


 ◇


配信前日。両社合同の、オンライン打ち合わせが行われた。


進行台本の読み合わせで、spoV側の担当者が言う。


「では、お二人の"初接触"のシーンですが——V-1以来、初めての直接対話という体で、緊張感のある入りをお願いします」


「「はい(ん)」」


(初接触……昨日も一緒にランク回ったんだよなあ)


(きのうも、いっしょに、あそんだ)


宿命のライバルたちは、神妙な顔で頷いた。世間が信じる「因縁の再会」は、こうして関係者にすら知られぬまま、二人だけの茶番として幕を開けるのである。


 ◇


配信当日。V-ARENAの特設アリーナに、二つの影が向かい合った。


同時接続は、開始前から五万を超えていた。個人コラボとしては、破格の立ち上がりである。


「——お久しぶりです、陽凪さん。V-1以来、ですね」


『……ん。あれから、ずっと』


陽凪は、フードの奥から、じっと来海を見据えた。


『——あなたを、たおすことだけ、かんがえてた』


『ひえええ』『ガチの目だ』『宿命すぎる』『鳥肌立った』


(う、うまい!! 瑠奈さん、演技うまいな!?)


嘘は言っていない。「倒すことだけ考えてた」のは事実である。毎週、非公開ロビーで、楽しく。——言葉とは、切り取り方なのだった。


試合は、始まった瞬間から、世間の期待を軽々と超えていった。


一進一退の撃ち合い。読み合いの応酬。V-1で一点をもぎ取った来海の成長と、それを上回り続ける最強の貫禄。示し合わせたわけでもないのに——否、毎週やり合っているからこそ——二人の攻防は、最高の試合として噛み合った。


『レベル高すぎだろ』『来海つよくなってない?』『これ本当に無料で見ていいのか』『同接9万いったぞ、個人コラボでこれはやばい』


最終スコアは、陽凪の勝ち越し。だが最終ラウンド、来海が正面の撃ち合いで一本を返した瞬間、コメント欄は今日一番の爆発を見せた。


「——っし!! 一本!!」


『……いまの、さいこう』


思わず、素の空気が漏れた。ぱちぱち、と陽凪が拍手する。


『え、陽凪が拍手した』『笑ってない?』『宿命のライバル、めっちゃ楽しそうで草』『なんだこの尊い空間は』


(——あ。まずい。いつもの空気が)


来海は慌てて咳払いし、宿命の顔を作り直した。


「い、いい勝負でした。陽凪さん」


『ん。……また、やろ』


「え、また!? ——じゃなくて! い、いつでも受けて立ちます!」


『またやろうって言った』『定期開催確定では?』『運営さん見てますか』


——かくして、リベンジマッチは同時接続十万超え——個人コラボでは滅多に拝めない大台——という記録を残し、大成功のうちに幕を閉じた。


 ◇


配信終了後。回線を非公開の通話に切り替えた瞬間、二人は同時に息を吐いた。


「つ、疲れた……。試合より、演技で疲れました……」


『ん。しゅくめいの、かお、むずかしかった』


「途中、完全にいつもの空気出てましたからね!?」


『でも、たのしかった。……こうしきで、あそべるの、いい。どうどうと、できる』


「……まあ、それは、確かに」


『ねえ、るい』


「はい?」


『……ていきかいさい、して、ほしい。わたし、うんえいに、いう。**まいしゅう、やりたい**』


「毎週は世間が飽きます!! あと隔週でも両社の企画部が過労死します!!」


『……じゃあ、つき、いち』


「月一なら、まあ、現実的……って、俺が決めることじゃないんですけどね」


『つきいち、かくてい。……こうしきの、やくそく、ふえた』


満足げな声だった。非公開ロビーの週一と、公式の月一。世間に見える約束と、見えない約束——彼女のカレンダーに、「るいと遊ぶ日」が、また一つ増えたのである。


 ◇


——その夜。Vmove's側の関係者たちも、それぞれの画面の前にいた。


『美咲:見た!? 同接10万超え!! 個人コラボでこれはやばい!!』


『遥:見たよ! 燈哉、最後の一本かっこよかった……じゃなくて、来海ちゃんすごかった!』


『静:姉さんの戦績に泥を塗らない良い試合でした。……ところで』


『静:お二人、配信中、ずいぶん**楽しそう**でしたね?』


『遥:それワタシも思った。宿命のライバルって、あんなに楽しそうだっけ?』


『燈哉:気のせいだって。ガチの真剣勝負だよ』


『瑠奈:たのしかった』


『燈哉:瑠奈さん!?』


『美咲:(実況席から身を乗り出すクマのスタンプ)』


——公と私、二つの層で回り始めた新しい関係に、恋の戦線の観測者たちが色めき立つ。


そして、この配信をきっかけに——来海の登録者数が、動き始める。

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