「審判、荒れる法廷」
「——それでは、フルパーティー第四回定例会を始めまーす」
防音会議室に、五人の顔が揃った。綾芽、遥、静、美咲——そして、黄色いレースのフリルがついたワンピースの瑠奈である。
「瑠奈ちゃん今日も可愛い! 二着目!?」
「ん。……ローテーション」
「装備が充実してきてる……!」
議題は、次回の合同企画について。だが美咲は、会議そっちのけで、先ほどから対面の二人をじっと観察していた。
(……やっぱり、へん)
遥と静である。先週まで、事あるごとに火花を散らしていた二人が——今日は、妙なのだ。
「静ちゃん、資料それで合ってる?」
「はい先輩。過不足ありません」
「そう、よかった」
(よそよそしい!! のに!!)
「あ、企画日程ですが、来週の土曜は——」
「「その日は都合が悪い(です)」」
(息ぴったり!!!)
よそよそしいのに、変なところで完全にシンクロする。まるで、何かの協定でも結んだかのような——
「……ねーえ。二人ともさあ」
美咲は、審判の目で、ずいっと身を乗り出した。
「なーんか、隠してない?」
「「隠してない(です)」」
「ほら揃った!!!」
「な、なんの話かなあ!? それより企画の話! 企画!」
「そうです。議事進行を優先してください」
(ぜっっったい何かある!! 審判の勘がそう言ってる!!)
だが、証拠はない。美咲は唸りながら、手元の「審判ノート」に書き込んだ。
『両選手、謎の停戦。水面下で何かが起きた模様。継続観察』
◇
その夜。週一の、デュオランクである。
『るい。きょうの、さくせん』
「はい。……って、あれ。瑠奈さん、今日マイク新しくしました? 声が近い」
『ん。かった。……こえ、きれいに、とどくやつ』
「おお、いい機材だ。プロの投資ですね」
『……とどいてる?』
「ばっちり届いてます」
『ん。……よかった』
ゲームは、いつも通り快調だった。そして最近、いつも通りでないのは——試合が終わった、後である。
『WINNER』
「よし、今日はここまでですかね。お疲れさまでした」
『ん。おつかれ。……ねえ、るい』
「はい?」
『……るいは、やすみのひ、なにしてる?』
燈哉は、少しだけ驚いた。瑠奈がゲーム以外の質問をしてきたのは、知り合ってから、たぶん初めてだった。
「休みの日ですか? うーん、素材作ったり、ゲームしたり……あと最近は、なんだかんだ誰かと出かけてることが多いですね」
『……そっか』
「瑠奈さんは?」
『わたしは、ゲーム。……でも』
少しの沈黙。それから、囁くような声が言った。
『さいきん、ゲームいがいのことも、たのしい。……フルパの、かいぎとか。かいものとか』
「ふふ。それはよかった」
『ん。……じゃ、また』
通話が切れた。
——その直後。とある部屋で、瑠奈は観測ノートに、新しい行を打ち込んでいた。
『きょうの、つうわ:しあいご、5ふん32びょう。ゲームいがいの、はなし:しんきろく』
『しつもん「やすみのひ、なにしてる」:じっこう、せいこう。……3しゅうかん、まよった、かいがあった』
打ち込んでから、瑠奈は自分のメモを読み返し、首を傾げた。
(……なんで、わたし、つうわの、じかん、はかってるんだろ)
答えは出ない。出ないので、いつものフォルダに保存した。フォルダの中には、原因不明の観測データが、少しずつ、確実に、積もり続けている。
◇
数日後。定例会の終わり際に、綾芽のスマホが鳴った。
「あ、すみません。会社から——」
画面を見た綾芽の目が、点になる。
「……どうしたの、綾芽ちゃん?」
「いや、その。……社長から。『大型案件だ。至急、話がある』って」
「「「大型案件?」」」
翌日、社長室。ソファに座った綾芽の前で、社長は愉快そうに書類を滑らせた。
「——spoVから、正式にオファーが来た」
「オファー?」
「**来海と月影陽凪の、公式コラボ企画**だ。V-1の宿命のライバル対決、再び——両社の看板を懸けた、公開ガチンコマッチ。向こうの企画部は乗り気でな。うちとしても、断る理由が一つもない」
「————」
「どうした。天敵との対決が怖いか?」
(怖いわけじゃなくて……その天敵と、毎週デュオ組んでるんだよなあ!!)
世間の知らないところで、宿命のライバルはとっくに相棒である。表向きは初の再会、裏では顔なじみ——史上まれに見るマッチポンプ配信の気配に、燈哉は頭を抱えた。
(これ、演技力いるやつだ……!)
——宿命の対決(二回目・ただし茶番)の幕が、上がろうとしていた。




