「最強、加入」
「——緊急会議を、始めます」
翌日の夜。本社の小会議室に、四人の顔が揃っていた。ホワイトボードの前の静が、極太マジックで議題を書き殴る。
『**社外バレ、発生**』
「改めて状況を整理します。相手は月影陽凪。spoVの看板。V-1で兄さんと戦った、あの最強です。証拠はないが観測データで確信済み。そして兄さんは——**自分から認めた**」
「…………はい」
「正気ですか」
「静ちゃん、落ち着いて。……でも燈哉、どうして認めたの?」
遥の問いに、燈哉は昨夜の会話を、そのまま話した。途中式のこと。「嘘をつかれたまま友達を続けるのは嫌だ」と言われたこと。しらを切る選択肢が、あの声の前で崩れたこと。
聞き終えた三人は、それぞれの表情で黙り込んだ。
「……気持ちは、わかる。わかるけど」
「問題は相手の所属です。**ライバル会社**。この情報、使われたらVmove'sごと吹き飛びます」
「うーん、でもさ。その子、半年もアーカイブ見て、確信してからも誰にも言わずに、本人に直接『答え合わせ』しに来たんだよね? ……それって」
美咲が、腕を組んで首を傾げた。
「悪い子には、思えなくない?」
「太陽の性善説は一旦置きます。とにかく、先方の要望は『仲間と一度話したい』。——受けるかどうか、です」
議論は割れた。だが最後は、燈哉の一言で決まった。
「……俺は、あの人を信じたい。それに、もし信じられないなら——俺たちにできることは、最初から何もないんだ」
◇
会談は週末の深夜、V-ARENAの非公開ルームで行われた。
装飾のない殺風景な会議空間に、Vmove's側の四つのアバターが並ぶ。来海、みなみ、志穂、ミハネ。全員、素性を守るためアバター姿である。
定刻ちょうど。空間の扉が開き——狼耳のフードが、音もなく入ってきた。
『……こんばんは』
「「「(((来た……!)))」」」
月影陽凪。すらりと背が高いのに、間近で見ると、V-1の時よりさらに気配が薄い。彼女はぺこりと頭を下げ、用意された席に、音もなく座った。
先手を取ったのは静だった。
「単刀直入に聞きます。**目的は、なんですか**」
『もくてき』
「情報をどう使うつもりか、ということです。取引か、脅迫か、暴露か。あなたの会社にとって、この情報は兵器になる」
『…………』
陽凪は、しばらく黙った。それから、ぽつぽつと話し始めた。
『わたし、ちいさいころから、ゲームだけ、してた。つよすぎて、ともだち、できなかった。たいせんあいて、みんな、すぐやめてく。……つまんないって、いわれて』
『かいしゃはいって、ゆうめいになって、でも、おなじ。だれも、ほんきで、わたしと、あそんでくれない。……せったいみたいな、しあいばっかり』
『V-1で、はじめて、まけた』
フードの奥の金色の目が、まっすぐに来海を見た。
『くやしくて、たのしかった。うまれて、はじめて、つぎのしあいが、たのしみになった。アーカイブ、ぜんぶみたのは、けんきゅうのためじゃ、なくて。……もっと、しりたかったから』
『だから——もくてきは、ひとつだけ』
陽凪は、指を一本、立てた。
『**このひとと、これからも、あそびたい**。それだけ。じょうほう、つかわない。だれにも、いわない。かいしゃにも、いわない。やくそくする』
「……口約束、ですよね。担保は」
『たんぽ』
陽凪は少し考えて、こてりと首を傾げた。
『……わたしが、うらぎったら、わたしの、たったひとりの、ともだちが、きえる。それが、たんぽ。……たりない?』
「————」
静が、ぐっと詰まった。理屈で武装した元ヤンに、理屈ゼロの本音は、あまりにも効いた。
『それに』
陽凪は、少しだけ胸を張った。
『わたし、くちかず、すくない。ぎょうかいで、いちばん、すくない。ひみつ、まもるの、とくい。……はんとし、だれにも、いわなかった。じっせき、ある』
「実績の出し方が独特なんだよねえ……」
美咲が吹き出し、張り詰めていた空気が、ふっと緩んだ。
◇
「……最後に、一つだけ」
会談の締めに、遥が手を挙げた。
「陽凪さんは、燈哉——来海のこと、その…………**どう**、思ってるの?」
遥と静の目が、静かに光った。守る会のもう半分——恋の戦線の、偵察である。
『どう?』
「す、好きとか! 嫌いとか! そういう!」
『すき』
「「!!!」」
即答だった。会議室の温度が三度下がった。
『たたかうの、すき。いっしょに、ランクまわるの、すき。……このひとと、しあいするために、まいにち、いきてる』
「「…………」」
((——恋愛感情なのか、ゲーマー感情なのか、判定不能……!!))
(陽凪さん、そんなに俺とのゲームを楽しみにしてくれてたのか。……いい人だな)
固まる二人の隣で、当の本人だけが、心底呑気に頷いていた。恋の戦線に分類不能の新勢力が観測された瞬間である——観測できていないのは、戦場の中心の一人だけである。
『? へんなこと、きく。……それで、けつろんは?』
陽凪が、ぐるりと四人を見回した。来海は仲間たちと顔を見合わせ——頷き合って、代表して手を差し出した。
「これからも、友達として。……そして共犯者として、よろしくお願いします。陽凪さん」
『ん』
細く白い手が、握り返してきた。
『……ともだちで、きょうはんしゃ。ふたつも、かかりが、ふえた』
フードの奥で——ほんの少しだけ、その口元が緩んだのを、確かに全員が見た。
——秘密を守る会、五人目。社外の最強、加入である。




