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俺は孤高のVTuber?  〜俺が男だとバレたら即引退なので、今日も美少女のフリして配信します〜  作者: こっこ
第一章「絶対にバレてはいけない配信者生活」
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「初コラボ、開始前」

遥に連れられて撮影用の部屋に入ると、そこには先客が二人いた。


一人は、全身黒のモーションキャプチャースーツ姿の少女。もう一人は、黒髪をひっつめて眼鏡をかけたスーツ姿の女性で、手帳を見ながら少女に何やら伝えている。立ち位置と空気感から、スーツの女性がマネージャーであることは一目でわかった。


「あれ? 遥先輩、そちらの方は誰ですか?」


モーキャプスーツの少女が、遥の隣の綾芽に目を留めて尋ねる。明るめの茶髪をハーフアップにまとめた、若々しく人懐っこい顔立ち——素性を知らなくても「現役の女子高生です」と言われて誰も疑わないだろう。


「ふっふん。彼女こそ本日の主役、明野来海の中の人——佐藤綾芽ちゃんだよ!」


なぜか遥が胸を張った。その言葉に、少女だけでなくマネージャーまでもが驚いてこちらを向く。


「ど、どうも。佐藤綾芽です。本日はよろしくお願いします」


燈哉は最低限の自己紹介とともに、軽く会釈をした。


遥と出会った時よりも、少しそっけない挨拶である。実はこれ、燈哉なりの考えあっての行動だった。


(身分を偽ったまま仲良くなるのは、良心が痛い。それに、親しくなるほどバレる危険も増える。だから今日からは”絶妙な距離感”でいくんだ……)


そんな決意は、三秒で崩壊した。


「私、法々ミハネの中の人、大政美咲! 今日は来てくれて本っ当にありがとう!」


少女——美咲が急接近し、両手をがっしり握ってきたのだ。飾り気のかけらもない真っ黒な撮影用スーツ姿なのに、向けられた笑顔は太陽みたいに眩しい。


(この子が……ずっと俺を気にかけて、今日を企画してくれた人か)


そう気づいた瞬間、絶妙な距離感計画は音を立てて消えた。


「こちらこそ。私のためにここまでしてくれて、本当にありがとう!」


(まぁ、綾芽ちゃんに仲のいい人が増えるのは、いいこと……いいこと、なんだけど……)


ものすごく勇気を出してようやく友達になった側の遥は、一瞬で打ち解けていく二人を見て、ほんのちょっぴり嫉妬した。


そんな遥に、マネージャーがそっと歩み寄る。


「あの子、ずっと言ってたんです。『全然コラボしない来海ちゃんは、会社に馴染めなくて困ってるんじゃないか』って。今回の配信も、あの子が一から企画して、自分でいろんな先輩方に頭を下げて、準備を進めてきました。……そして、憧れの来海ちゃんの中の人に会えた今、あの子のテンションは最高潮です。正直、何をしでかすかわかりません。暴走しそうになったら、先輩としてお願いしますね、遥さん」


「わ、私なりに、頑張りますよ」


気づけば、胸の奥の嫉妬はどこかへ消えていた。マネージャーは「ありがとうございます」と一礼し、静かに部屋を出ていった。


「配信開始まであと二十分! まだ一人来てないけど、とりあえず二人とも、私と同じこれに着替えてきて!」


「わかった! 綾芽ちゃん、一緒に着替え行こ!」


——大ピンチ、である。一緒に着替えれば、性別など一瞬でバレる。


と思いきや。前日の夜、あらゆる事態を想定し尽くしてきた燈哉にとって、この展開は完全に想定内だった。


「あ、私、もう中に着てますよ」


白いパーカーを脱ぐと、下から黒いモーキャプスーツが現れる。


「え!? もしかして……下も?」


「もちろんです」


(「一時間目が体育だから、制服の下に体操着を着てきました」みたいなノリでこれを着込んでくるって……。しっかりした子だと思ってたけど、なかなかクレイジーじゃん)


美咲が半歩引いたことに、“計画通り”のドヤ顔を浮かべる燈哉が気づくことはなかった。


「じゃあ私は着替えてくるねー」


遥はそう言って部屋を出ていった。


 ◇


残った二人は、撮影位置に用意された椅子に座った。一メートルほどの等間隔で並んだ椅子は、全部で四つ。カメラから見て一番右に美咲、その隣に燈哉が腰を下ろす。


「今日ってモーションキャプチャーで撮影するとは聞いたけど、具体的には何をやるの?」


「聞いて聞いて! まずいろんなゲームで勝負して、負けた人には一発芸をさせたり、アバターの服を一枚脱がせたりするの! せっかく四人も集まるから、スポーツ系とかパーティ系のゲームがいいと思ってて! あとね、最近他のVTuberさんたちがやってる、キャラの中身が入れ替わるやつもやってみたいし、先輩たちがこの前やってたあれも——」


(きっと、俺のためにたくさん考えてきてくれたんだろうな)


止まらなくなった美咲を、燈哉は温かい目で見守った。なお、自分から質問したくせに、内容は右から左である。


——と、そこへ最後の一人が到着した。


「ぎりぎりになっちゃって、本当にごめん!」


焦げ茶のゆるく巻いたロングヘアに、大きな胸。大人の色気を纏った美人が、颯爽と部屋に入ってくる。


「莉音先輩! 今日は来てくれて本当にありがとうございます!」


元気よく挨拶する美咲の陰で、燈哉はそっと小声で尋ねた。


「……あの方は、どなた?」


「あの人こそ我らが大先輩——神楽阪サツキの中の人、大村莉音先輩だよ!」


「あの神楽阪サツキ先輩の、中の人!?」


(まさか、あのサツキ先輩が来てくれるなんて。このコラボ……俺の予想より、とんでもないことになりそうだ)


燈哉は、ぐっと気を引き締めた。運命の初コラボが、始まろうとしている。


——このとき燈哉はまだ知らない。この頼れる大先輩が、九帝随一の”問題児”であることを。

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