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俺は孤高のVTuber?  〜俺が男だとバレたら即引退なので、今日も美少女のフリして配信します〜  作者: こっこ
第一章「絶対にバレてはいけない配信者生活」
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「九帝降臨、開幕からフルスロットル」

(Vmove’sという会社は、「VTuber」という新ジャンルを最初に作ったから成功した——世間はそう言う。だが、俺は少し違うと思っている)


配信開始を待つ椅子の上で、燈哉はぼんやりと考えていた。


(新ジャンルを生み、モーションキャプチャーの技術で商売する。それだけなら、ここまでの大企業には絶対なれなかった。この会社を今のVmove’sにしたのは——初代設立メンバー、あの”九人”だ)


新たなジャンルをゼロから生み出し、その黎明期に圧倒的な存在感を確立する。それにより、後発の大企業が束になっても太刀打ちできない牙城を、この会社は築き上げた。


事実、VTuberというものが生まれてから約一年もの間、九人の人気があまりに絶大すぎて、個人勢も他企業勢もほとんど日の目を見られなかったという。業界の頂点に君臨するその様から、九人は”九帝”と呼ばれ、その一年間は”九帝時代”として今も語り継がれている。


そして——今、燈哉の隣に座る莉音は、その九帝の一人なのだ。


(つまり俺は、人生初の正式コラボで、いきなり生ける伝説と共演するわけで……)


緊張するなというほうが、無理だった。


 ◇


撮影位置には、カメラから見て右から美咲、燈哉、遥、莉音の順で着席。全員が黒のモーキャプスーツに身を包み、機材のセットも完了——準備は万全だ。配信開始まで、あと一分を切っている。


そして、まだ待機画面だというのに、同接はすでに二万を超えていた。来海の配信史上、最高記録。数字は、今この瞬間も伸び続けている。


「よーし、始まるよ! たぶん長丁場になると思うけど、みんな準備大丈夫?」


「「もちろんです!」」


莉音の声に、遥と美咲が元気よく答える。肝心の主役はといえば、


「はい……」


蚊の鳴くような声だった。


「綾芽ちゃん。何をやらかしたって、先輩の私がいるから大丈夫。だから——もっと胸張っていこ!」


莉音の言葉には、長年最前線に立ち続けてきた者の力強さがあった。張り詰めていたものが、ふっと緩む。


「——はい!」


今度は、ちゃんと声が出た。それを見た遥と美咲も、ほっとした顔になる。


正面の大きなモニターに、四人のアバターが並んで映し出される。そして時計の針が正午を指すのと同時に——VTuber明野来海、初の正式コラボが幕を開けた。


 ◇


「微分、積分、いい気分! どうもみなさんこんにちは、明野来海です! そして、本日来ていただいたゲストの皆さんです!」


「VTuber法律事務所代表取締役兼、皆のアイドル! 法々ミハネです! それとっ!」


「Vmove’s怠惰担当、早坂みなみで〜す! そしてっ!」


「今日は、生で、したい気分〜。どうもみなさんこんにちは、神楽阪サツキで〜す!」


(おい!? この人、俺の挨拶の型をパクった上に、初っ端からセンシティブ発言ぶちかましやがった!)


神楽阪サツキ。九帝の一人にして、登録者二百八十万。伝説クラスの大先輩の、圧倒的なインパクトをみせつける第一声であった。


「サツキ先輩! 昼間から、後輩とのコラボ配信の第一声がそれは、さすがにヤバいよ!」


隣の遥が、すかさず注意を入れる。


(そういえば……さっきまで頼れる先輩だと思ってたけど、神楽阪サツキって”こういう人”だった……)


神楽阪サツキ。少し暗い赤を基調とした短い髪に、紅く澄んだ瞳、そして大きな胸。OL風の服は、なぜか意図的に胸元が見える設計になっており、妙な色気を放っている。設定は『エロすぎて授業に集中できない、と生徒とその親からクレームが相次ぐ教師』。一人称は「先生」。


そして、その設定に忠実すぎる下ネタの常習犯である。自分の配信で多用するあまり、コラボ先でもうっかり放っては怒られるのが日常茶飯事——九帝随一の、問題児なのだ。


「いや〜、今の発言のどこがヤバいのか、先生わからないな〜。もしかしてみなみちゃん、何かよくないこと想像しちゃったのかな〜?」


「え、いや、ほら、その……!」


しどろもどろになった遥が「違う違う」と大きく振った手が——莉音の胸に、ぽすっと当たった。


「あっ! みなみちゃんが先生のおっぱい触った!」


「ち、違っ、今のは事故で!」


「本当に事故かな〜? 自分に全くないから、つい触りたくなっちゃったんじゃないの〜?」


「……全く無いとは、失礼な。先輩でも許しませんよ?」


直後。遥は莉音の胸をわしっと掴み、そのまま押し倒した。


「ちょっとみなみちゃん!? 悪かったから、やめっ、あはは!」


「どうやったらこんなにでかくなるんですか、この胸は〜!」


くすぐったさに笑い転げる莉音。見かねた美咲が、慌てて割って入ろうとする。


「ちょ、ちょっと遥先輩、やめてあげて! もう配信始まってるんだよ!?」


「ミハネ! お前も私より年下のくせに、こんなでけぇ胸ぶら下げやがって! 許さん!」


標的変更。遥は今度は美咲の胸を掴んで押し倒した。


「ひゃっ、先輩、やめっ……!」


「どうせお前も『この先輩、胸ちっせぇなw』とか思ってるんだろ! 正直に答えてみろ!」


「思ってないってことは、ないですけどぉ!?」


「あぁ!? やっぱ思ってんじゃねぇか!」


怒号と嬌声が、ノーカットで全国二万人に生配信されていく。


(何をやらかしても大丈夫と言った本人が、真っ先にやらかす莉音先輩。普段の姿からは想像もつかない暴挙に出る遥先輩。変な声を上げて、事態をさらにセンシティブにする美咲……)


「……コラボって、こんなに大変なんだね」


来海のぽつりとこぼした一言に、コメント欄は『わかる』の大合唱となった。


(まだ始まったばかりだぞ。負けるな俺。負けるな、明野来海! 明日は絶対、美味い飯を食いに行くんだから!)


燈哉は自分にそう言い聞かせ、なんとか心を折らずに堪えるのだった。


——この配信最大の”惨事”が、まだこの先に控えていることも知らずに。

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