「四人目の共犯者」
「——では、記念すべき第一回・拡大版『企画会議』を始めます」
土曜の午後、本社の小会議室。ホワイトボードの前の綾芽と、遥、静——そして本日から正式加入の、美咲である。
「よろしくお願いします! 新入りの大政美咲です! 特技は明るさ!」
「「((この会、また明るくなったな……))」」
議題はもちろん、新体制の運用である。静がホワイトボードに、極太マジックで書き殴った。
『**美咲先輩に、演技を仕込む**』
「ちょっと!? 私、昨日『演技得意』って言ったよね!?」
「先輩。では試しに。——配信中、私がうっかり『兄さん』と言いかけたとします。はい、どうぞ」
「え、えっとー……『し、志穂ちゃんは来海ちゃんをお兄ちゃ——お姉ちゃんみたいに思ってて〜!』」
「「「今この場で言い間違えた!!」」」
「待って!? 今のノーカン!!」
結果は、惨敗だった。知る前の美咲の天然フォローは無敵の防壁だったのに、事情を知った途端、美咲は嘘のつけない普通の女子高生に戻ってしまったのである。
「目が泳ぎすぎです。あと、秘密っぽい単語のたびに綾芽さんをチラ見する癖、今日だけで十四回です」
「数えてたの!?」
「知らない時の先輩が最強すぎたんだよねえ……」
「どうしてくれるの、この逆転現象!!」
(世界一心強くて、世界一危なっかしい味方ができてしまった……)
対策として、当面の配信は「美咲は今まで通り、何も知らない体で天然を貫く」方針に決定した。演技ではなく素を出せ、という高度な注文である。
◇
とはいえ——新体制の恩恵は、すぐに表れた。
翌週の『くるみ割り同盟』第三回。ゲスト顧問の美咲は、宣言通り「いつも通りの太陽」を全力で演じ——もとい、全力で素を出した。
「はいはーい! 特別顧問の"太陽"、二回目の出勤でーす!」
『太陽きた』『定例化嬉しい』『同盟の良心』
配信は快調に進んだ。事件が起きたのは、視聴者投稿の作戦審査、その最中である。
『作戦名:幹部の中の人を推理する』
一瞬、ブースの空気が凍った。——だが。
「あっ、それ系は禁止カードでーす! 秘密結社の中の人は全員『秘密』です! はい次!」
「そ、そうそう! 結社ですから!」
「規約第一条です。次の作戦どうぞ」
美咲の即断が、綺麗に流れを作った。撫で下ろす胸が三つ。……ただし。
(((今の「あっ」の声、ワントーン高かった……!)))
分かる人間には分かる、紙一重の防衛だった。配信後、通話に切り替えた四人は、揃って深い息を吐いた。
「……どうだった!? 私、守れてた!?」
「九十点です。減点は最初の『あっ』」
「聞いてる方の心臓に悪いんだよねえ、あの『あっ』」
「でも、助かった。……ありがとな、美咲」
「んふふー。太陽、練習しますとも!」
守る側に回った太陽は、危なっかしくて、それでも確かに、頼もしかった。
◇
その日の帰り際。燈哉が飲み物の買い出しに席を外した、その隙のことである。
会議室で椅子を戻しながら、美咲がふと、しみじみと言った。
「……ねえ、二人とも。私、入ってみて分かったんだけどさ」
「なに?」
「この会。半分は燈哉くんを守る会で——もう半分、**恋の戦場**だよね?」
「「ぶっ」」
遥と静が、同時にむせた。
「だ、だだだ誰も戦ってなんか」
「そ、そうです。私はあくまで兄と慕う後輩として」
「へえー? ふーん? そっかそっか〜? ……言っとくけど、事情を知った今の私から見ると、二人とも**もろバレ**だからね?」
「「〜〜〜っっ」」
「あ、でも安心して。**本人にだけは、絶対バレてないから**。あの鈍感、逆にすごいよ。才能だよ」
美咲は、にまにまと二人を見比べた。恋には参加しない太陽は、その分、観客席の一番いい席に座ったのである。
「じゃ、審判は私がやるね! 公平・公正・実況付き!」
「「審判もいらない!!」」
——がちゃり。
「お待たせ。……ん? なんの審判?」
戻ってきた燈哉が、缶ジュースを配りながら、きょとんと首を傾げた。
「「「な、なんでもない(です)!!」」」
「? そうか」
(……三人とも、ほんとに仲良くなったなあ)
心底呑気にそう思う男を前に、三人の少女は同じことを考えた。——この鈍感は、才能である。
騒がしい放課後のような時間が、会議室に満ちていた。一年前、たった一人で秘密を抱えていた頃には、想像もできなかった光景である。
◇
——そして、その帰り道のことだった。
駅前のカフェの前で、四人は、ばったりと**莉音**に出くわした。
「あれ〜? 美咲ちゃんに、遥ちゃんに、静ちゃんに——綾芽ちゃんまで。おやおや〜?」
買い物袋を提げた莉音は、四人の顔を、ゆっくりと見回した。
「四期と三期と五期の合同お茶会? いいねえ、若者の交流。……ところでさ〜」
にんまり、と。大人の笑みが深くなる。
「最近、あなたたち四人、**なーんか楽しそう**じゃない? 配信もプライベートも、いっつも一緒でさ。秘密の同盟、ってやつ?」
「「「(((鋭い!!!)))」」」
「ね、お姉さんも、混ぜてよ?」
その瞬間の四人の顔は、見事に揃っていた。すなわち——満面の、引きつった笑顔である。
「あ、あはは! サツキ先輩ってば、同盟はただの配信企画ですよ〜?」
「ふ〜ん? ……ま、いっか。今日のところは」
莉音はひらひらと手を振って、雑踏へ消えていった。……その口元だけが、面白いおもちゃを見つけた形に、緩んでいたことを、四人は知らない。
「……ねえ。今の、セーフだよね?」
「「「……たぶん」」」
——秘密を知る者、四人。嗅ぎつけつつある者、一人。
太陽が加わった賑やかな日常は、それでも今日のところは、平和だった。




