「和風三人衆、参上」
事の始まりは、一通の手紙だった。
本社の来海のロッカーに届いていたのは、見事な折り鶴——広げると、便箋になっていた。
『来海様。此度、我ら三名による「和フェス配信」を催すこととなりました。つきましては、ゲストとしてご参加賜りたく。 千羽サエ』
「手紙が折り鶴って、粋すぎるだろ……」
差出人は、二期生の千羽サエ。そして連名に、一期生・古屋コノハと、二期生・金辺スイ。——熱海で同じ宿に泊まりながら、ゆっくり話せずじまいだった先輩たちである。
(コラボ解禁を宣言した以上、行かない理由はない。……それに、あの三人がどんな人たちなのか、純粋に興味がある)
◇
「和フェス配信」当日、開始三十分前。V-ARENAに再現されたのは、夏祭りの縁日だった。提灯の並ぶ参道、屋台、櫓——ただし、配信はまだ始まっていない。今ここで交わされる声は世間には一切届かない、VTuber同士だけの"楽屋"の時間である。
そのド真ん中で、忍者が手裏剣を投げていた。
「にんにん! ようこそ来海はん! Vmove'sの隠密担当、古屋コノハや!」
抹茶色のポニーテールに木の葉の髪飾り、濃緑のくのいち装束。一期生——つまり九帝の一人であるコノハは、伝説の風格を一切感じさせない距離の近さで、来海の肩をばしばし叩いた。
「熱海ぶりやなあ! あん時の卓球、うちめっちゃ笑たで! 賞品席の顔!」
「そ、その話、本番では絶対にナシですからね!? ……あの卓球、社内で語り継がれすぎでは!?」
「わかっとるって。旅行の話は配信じゃご法度——楽屋だけのお楽しみや」
「ふふ。ようこそ、来海さん」
続いてふわりと現れたのは、白から赤へ移ろう金魚の尾ひれのようなツインテールの少女——金辺スイ。周りには小さな金魚の演出がゆらゆらと泳いでいる。
「今日は、たくさんゆらゆらしていってね……」
「ゆらゆら……?」
「スイちゃんの周りでは、時間の流れが三割ゆっくりになるんよ。癒しやで〜」
「お待ちしておりました、来海様」
最後に、白と朱の巫女装束の女性が、静かに一礼した。黒髪ロングの毛先だけが白い——千羽サエ。手元では、折り紙が生き物のように形を変えていた。
「本日は、折り紙と、祭りと、歌の宴。……どうぞ、ごゆるりと」
(……なるほど。騒がしい忍者と、ゆらゆらの金魚と、静かな折り鶴。この三人で"和"が完成してるんだ)
登録者は、コノハ二百五十八万、スイ百三十四万、サエ百二十万。伝説の一期と、堅実な二期の看板が三枚揃った宴である。
音声チェックの傍ら、進行役の朱里と柚木も楽屋に顔を出し、場は小さな同窓会になった。
「この三人、旅館の宴会で即席の余興やってくれたのよね。コノハの手品と、サエの折り紙と、スイちゃんの……なんだっけ」
「「ゆらゆら」」
「そう、ゆらゆら。あれは芸なのか未だにわからない」
「……芸、やで?」
(熱海の時は、静ちゃんの騒動で頭がいっぱいで、ちゃんと見られなかったんだよな。……もったいないことをしてた。この会社、どこを切っても面白い人しかいない)
「ほな——時間や。ここからは、世間行きのマイクやで。……本番、いくで!」
提灯にぽっ、と灯が入り、世間と繋がる配信ランプが赤く灯った。
◇
配信は、三者三様の見せ場で進んだ。
コノハの手裏剣曲芸(V-ARENAの物理演算の限界に挑む的当て)に、リスナー参加の金魚すくい大会(スイの周りだけ金魚が寄ってくるチート)、そしてサエの折り紙実演——一枚の紙から連なる鶴が生まれていく手元に、コメントが『職人』で埋まる。
「来海はんも折ってみ! サエの折り紙講座、社内で一番人気やで」
「や、やってみます。……あれ、あれ? 羽が、四枚に……」
「あら。……新種の発見ですね」
「フォローが優しい!」
『鶴(新種)』『研究者が新種を生み出すな』『かわいいからヨシ』
途中、進行役の朱里と柚木も画面に顔を出し、『引率コンビだ』『ソロモンとソラ様が進行してる贅沢』とコメントを沸かせた。
◇
宴もたけなわ、櫓の上で三人が揃って挨拶に立った。
「ほな、締めや! 和の心、伝わったかー!」
「みんな、ゆらゆらできた……?」
「本日は、ご来場まことにありがとうございました」
大盛況のうちに幕を下ろしかけた、その時——サエが、ふと夜空の演出を見上げて、ぽつりと言った。
「……そういえば。九帝のお三方、最近めっきりお姿を見ませんね」
「あー、京姉さんな。あの人は起きとる時間のほうが短いから」
「楓様と琴音様も、ここのところ配信が少なくて……少し、寂しいです」
「せやなあ。——ま、もうすぐ会えるやろ。**アレ**があるし」
「アレ?」
来海が聞き返すと、コノハはにんまり笑って、カメラ目線で言った。
「V-1優勝記念・社内感謝祭や。——**九帝、全員集合**やで」
コメント欄が、その一言で爆発した。




