「策士、一矢報いる」
最終種目・ゲーム対決。タイトルは業界標準のFPS『ヴァルキリーゾーン』。三社それぞれ四人一組のチーム戦で、全五ラウンド、一ラウンドごとに1ポイント。さらにその後、特別ラウンド(1ポイント)が控える——つまりこの種目では、6ポイントが動く。
『改めて現在の総合ポイント! Vmove's:5! NSJ:5! そしてわがspoV:2!——つまりぃ! ここから全部うちが獲れば、余裕で逆転優勝ってわけよ!!』
実況席と選手を兼任するスカーレットが、遠慮の欠片もなく吠えた。同接は三十万超。V-ARENAの仮想フィールドに、十二人が展開する。
「みんな、作戦は昨日詰めた通り。まずは正面からやってみよう」
「「「おー!」」」
(——本場の力がどれほどか。まずは、見せてもらう)
◇
——結論から言えば、それは「試合」ではなかった。
『第1ラウンド——spoV獲得ォ!!』
『第2ラウンド——spoV!!』
『第3ラウンド——spoVッッ!!』
『第4ラウンド——……spoVでーす!!』
一方的な、蹂躙だった。
陽凪は、次元が違った。索敵よりも早く現れ、反応よりも早く撃ち抜いていく。キララのマークは追いつかず、おうちゃまの囮は「……それ、罠」と一言で見切られ、来海の裏取りは裏の裏で待ち伏せされた。
「拙者も参るッ!」
そこへナイフ一本のつるぎが斬り込み、フロちゃんの支援(グレネードの投げ間違いで自陣が凍る事故を三回起こしたが)が続く。NSJに至っては——
「リリカァ! だから感度設定を直せとあれほど!!」
「うるさいわね! 銃口が勝手に天井を向くのよ!!」
——見せ場すら、作れずにいた。
『【総合ポイント】spoV:6 Vmove's:5 NSJ:5』
第四ラウンド終了。スコアボードが、残酷な現実を映す。
(……まずい。本当に、まずい)
インターバルのブースで、燈哉は素早く現状を分析し、策を練っていた。
(残りは第5ラウンドと、特別ラウンドの計2点。spoVが第5を獲れば7点——その時点で、うちの最大値は6。**優勝の目が、消える**。NSJも同じだ。つまり第5ラウンドは、うちとNSJにとっての絶対防衛線……!)
「ね、ねぇ来海ちゃん、どうしよう。正面からじゃ、一生勝てないよあれ……!」
「うん。正面からじゃ、絶対に勝てない」
来海は、あっさりと認めた。そして、続けた。
「——だから、撃ち合わない」
「「「え?」」」
「第5ラウンドのルール、思い出して。キル数じゃない——**エリア確保**。制限時間まで指定された拠点を確保し、守り切ったチームが勝ち。つまり……陽凪さんを一発も倒せなくても、勝てる」
三人が、はっと顔を見合わせる。
「私たちの武器は、撃ち合いじゃない。ミハネの"声"、キララの"目"、おうちゃまの"人読み"。——この三つで、最強のspoVから"時間"だけを盗む。作戦名は……そうだな」
来海は、にっと笑った。
「『"時間泥棒"』で、いこう」
◇
第5ラウンド、開始。
その直後、陽凪は一人でNSJに奇襲をしかけた。そしてなんと、たった一分の間に全員倒しまう。これにより、NSJの負けが確定。残りはspoVとVmove'sの2チームになった。
陽凪がいない隙に先に拠点エリアを確保したVmove's。
だが、そこに陽凪が戻り、spoVの猛攻が始まる——はずだった。
「ミハネ、お願い!」
「りょうかーい! ……『キララ、東通路に回って! 三十秒後に東から仕掛けるよ!』」
V-ARENAの音声は、距離と方向まで再現する。ミハネがわざと"聞こえる位置"で放った偽の指示に、spoVの遊撃——つるぎとフロちゃんが東へ動いた。
本命の西通路は、がら空きになる。
「おうちゃま、今!」
「ふはははは!! 余はここだぞ、たわけども!!」
西から堂々と現れた魔王に、spoVの意識が割れる。罠だと見切っていた陽凪だけが動かない——だが、彼女一人では二方向は塞げない。
「キララ、高所! 見えてる?」
「ばっちり! 陽凪さん、単独でこっちに来る——**予定より2秒早い**!」
「上等——なら、俺の仕事だ」
来海が、拠点を出た。守るべき拠点を、あえて。
「……来た」
陽凪が、獲物を見つけて反転する。最強と最速の、二度目の遭遇。だが今回、来海は撃ち合わなかった。撃っては引き、隠れては顔を出し——当たらない距離を、正確に保ち続ける。
(倒さなくていい。倒されなくていい。**あんたの三十秒を、俺が全部もらう**)
「……っ、逃げるの、うまい」
最強プレイヤーがたった一人の囮に釘付けにされている間に、拠点の砦は完成していた。ミハネの声が飛び、キララの目が敵を映し、おうちゃまが盾になり——
『制限時間、終了ォ!! 第5ラウンド——**Vmove's、獲得ァァァ!!**』
「「「よっしゃあああああ!!」」」
『【総合ポイント】Vmove's:6 spoV:6 NSJ:5』
——同点。土壇場で、絶対防衛線は守られた。
『信じらんねぇ……うちの大将から1点もぎ取りやがった……!』
実況のスカーレットの声が、歓声に飲まれていく。
◇
「——そして! 運命の特別ラウンドのルールを発表します!」
『各チーム代表一名による、**三つ巴の一対一対一**! 勝者のチームに1ポイント——つまり、**勝ったチームが、そのまま総合優勝**です!!』
spoVからは、当然、月影陽凪。NSJからは、エクス・ワイルド。そしてVmove'sは——
「「「来海で!」」」
「……うん。行ってくる」
立ち上がった来海に、V-ARENAの待機エリアから、狼耳のフードが歩み寄った。仮想空間の距離にして、数歩。視線の圧まで、そのまま伝わってくる。
「……さっきの、時間泥棒。悔しいけど、きれいだった。でも」
金色の目が、獲物を見つけた獣のように細くなる。
「次は、逃げ場のない一対一。……ずっと、たしかめたかった」
「——見せて。あなたの、いちばん速いの」
三十万人が、息を呑んだ。
勝った者が、すべてを獲る。最後のラウンドが、始まる。




