「魔王、データを破壊する」
第二種目・企画対決。ルールはシンプル——各社代表が持ち込んだ企画を全員参加で実施し、「一番面白かった企画」をリスナー投票で決める。
NSJ代表はもちろん、パモンド・クリスタ。
「私の企画は『心理戦クイズ・ラビリンス』ですわ。全員の回答傾向を事前データから解析し、裏切りと駆け引きが必ず生まれるよう設計しております。台本進行、秒単位。——完璧、ですわよ」
その進行は、確かに完璧だった。仕込まれた対立構造は的確に火花を生み、見せ場は計算通りの位置で爆ぜる。ワイルドが「オラオラ、俺を騙せると思ったか!」とインパクトで沸かせ、ルビーが落ち着いた声で全員を出し抜く。数字は面白いように伸びた。
『さすがクリスタ』『進行が上手すぎる』『これはNSJ二連勝じゃね?』
——そして、Vmove'sの番が来た。
V-ARENAの舞台中央に、巨大な玉座がその場で生成される。仮想空間ならではの一瞬の舞台転換に、会場がどよめいた。
「ふはははは! 余の企画はこれである!——『**魔王さまの無茶振り玉座**』!!」
「「「説明になってない」」」
ルールは、あってないようなものだった。玉座に座ったおうちゃまが、サイコロと勘で参加者に無茶振りを飛ばす。ただそれだけ。台本なし、データなし、進行表なし。
「クリスタ! 貴様、その片眼鏡を外して素の目で三十秒間、カメラを見つめよ!」
「は!? わ、私のキャラ設定を何だと——ちょっ、押さないでくださいまし!」
「リリカ! 貴様は今から『ドの音だけ』でハッピーバースデーを歌え!」
「ド……ド、ドドド……っ、ふ、ふふ、無理よこんなの、ふふふっ」
「陽凪! 貴様は『つよい』以外の語彙で、隣のつるぎを三十秒褒めちぎるのだ!」
「…………。……剣、はやい。……ごはん、おいしそう。………………がんばれ」
「拙者への褒め言葉が離乳食!?」
会場は、大惨事だった。——最高の意味で。
完璧に作り込まれたクリスタの迷宮が「感心する面白さ」なら、おうちゃまの玉座は「呼吸ができない面白さ」だった。あの塩対応のリリカが素で吹き出し、無口な陽凪が語彙を絞り出し、フロちゃんに至っては笑いすぎて杖ごと転倒し、それすら芸になった。
(——いや、待て)
画面の隅で、燈哉だけが気づいていた。
(無茶振りの順番、おかしくないか? 場が温まる前はワイルドさんやスカーレットさんみたいな「受けの強い人」に振って、空気ができてから、リリカさんや陽凪さんの「意外性」を切ってる。サイコロ、見てるようで——見てないな?)
でたらめに見える進行は、その実、精密に読まれていた。誰なら壊れても大丈夫で、誰の意外性がいつ最も輝くか。台本の代わりに、**人間を読んでいる**のだ。
◇
投票結果——『第二種目・企画対決、優勝:Vmove's・魂盛おうちゃま!』
「ふはははは!! 余の勝利である!!」
高笑いする魔王の後ろで、クリスタが片眼鏡を押さえ、ぶつぶつと敗因分析を呟いていた。
「……計算外ですわ。台本のない進行があの精度……いえ、違う、あれは台本がないのではなく……対象把握が、リアルタイムで……」
そして彼女は、悔しさを飲み込むように息を吐き、小さく——本当に小さく、言った。
「……いいセンス、ですわ」
◇
第三種目が始まるまでに設けられた小休憩。V-ARENAから切断し、本社スタジオの廊下へ飲み物を買いに出た燈哉は、自販機の前で先客に出くわした。
廊下のベンチの端に、膝を揃えてちょこんと座り、緑茶のペットボトルを両手で包むように持って、静かに飲んでいる小さな影。配信のたびに玉座で高笑いする、あの傍若無人な魔王さまの面影は、どこにもない。——魂盛おうちゃま、その中の人である。
「あ……お、お疲れ様です」
「お疲れ様です。先程は、その、ありがとうございました。無茶振り、嫌じゃなかったですか?」
飛び出したのは、魔王の高笑いとは似ても似つかない、落ち着いた丁寧な声だった。
(——やっぱりだ。熱海の宴会の時と同じ。この人の"素"は、こっちなんだ)
「嫌じゃなかったですよ。……というか、あの進行、全部読んでやってましたよね。振る順番も、選ぶ相手も」
「っ……気づいちゃいました?」
彼女——眞中奈央は、少し困ったように笑って、緑茶を一口飲んだ。
「私、本当はこういう性格なんです。石橋を叩いて、空気を読んで、誰も傷つけないように先回りして……つまらない、常識人」
「つまらないとは思いませんけど」
「ふふ。でもね、ずっと憧れてたんです。空気なんて読まずに、玉座にふんぞり返って、言いたいことを言える誰かに。——**魔王さまはね、私が一番なりたくて、なれない私なの**」
「…………」
「変ですよね。なりたい自分を演じるために、なれない自分が裏で必死に空気を読んでるんだから。……あれ、なんで私、こんな話してるんだろ。来海さん、聞き上手ですね」
(——変じゃない。変じゃないよ、その気持ちは、多分この会場の誰よりも、俺が知ってる)
守りたいもののために、別の自分を演じる。演じた自分が愛されるほど、素の自分との距離を思い知る。それでも降りられない。降りたくない。
「……変じゃ、ないです。演じてる自分も、ちゃんと自分ですよ。だって——空気を読めない魔王さまは、空気を読める奈央さんにしか、演じられないんだから」
奈央は目を丸くして、それから、魔王とは似ても似つかない、柔らかな笑みを浮かべた。
「……来海さんって、時々、同じ穴の狢みたいな顔しますね」
「っ、き、気のせいです」
(鋭い!! この人、鋭いよ!!)
◇
スコアボードに、点が入る。
『第二種目・企画対決 結果——1位:Vmove's(+3)/2位:NSJ(+2)/3位:spoV(+1)』
**【総合ポイント】Vmove's:5 NSJ:5 spoV:2**
首位は、同点。そして最下位のspoVには、まだ焦りの色すらない。——当然だ。最終種目・ゲーム対決は五ラウンド制で、一ラウンドごとに1ポイント。さらに特別ラウンドまで含めれば、**計6ポイント**が動く。彼らの本場で、勝負はいくらでもひっくり返る。
会場の隅で、狼耳のフードが、ゆらりと立ち上がる。ヘッドセットを装着する音が、やけに大きく響いた。
「……やっと、私の番」




