「星屑、白鳥に挑む」
V-1グランプリ第一種目・対抗ライブ、当日。
各社代表一名によるステージを、リスナー投票と特別審査で競う。spoVはスカーレット、NSJはリリカ、そしてVmove'sは——キララ。
四期生はVmove's本社スタジオからV-ARENAに接続する。本番一時間前——慣れた本社の控え室で、来海は付き添いとして、緊張のほぐし方を探していた。
「キララちゃん、飲み物いる? それとも発声——」
「ね、来海ちゃん。ちょっとだけ、昔話していい?」
鏡の前の星屑アイドルは、いつものテンションのまま、けれど少しだけ静かな目で切り出した。
「私ね、もともと"こっち側"の人間じゃなかったんだ。ずっと、リアルのアイドルを目指してたの」
「……そうなの?」
「オーディション、十六回受けた。書類で落ちたのが九回。面接で落ちたのが五回。最終まで行って落ちたのが、二回」
キララは指を折りながら、あっけらかんと数え上げた。
「最後の最終審査でね、言われたの。『歌もダンスも及第点。でも、星になれる子は最初から光ってる。あなたは——観客席の子だね』って」
「……っ、それ、は」
「ひっどいよねー! でもさ、悔しいけど、ちょっと本当だったんだ。私、緊張すると光れなくなるタイプだったから」
だから、と彼女は続けた。
「VTuberを見つけた時、雷が落ちたみたいだった。この世界なら——観客席の子だった私でも、もう一回、星を目指していいんだって。……蒼山キララは、私の二度目の夢なんだ」
(十六回落ちて、まだ夢を数え直せるのか。この子は——)
「今日の相手、あの金銀銅リリカだよ? NSJが誇る、正真正銘の"最初から光ってる子"。……怖くないと言えば、嘘になるけど」
キララは立ち上がり、星の髪飾りを、きゅっと締め直した。
「観客席から来た星屑の意地——今日、見せてあげようと思って」
◇
——そして、本番。V-ARENAに出現した仮想ライブ会場——数万の観客アバターが埋め尽くす大ホールで、リリカのステージは、圧倒的だった。
一音目から、会場の空気が変わった。完璧なピッチ、完璧なビブラート、完璧な間。白鳥が羽を広げるような歌声に、十五万人のコメント欄が、一瞬「静まった」のである。賑やかすことを忘れて、ただ聴き入る——配信では滅多に見られない現象だった。
『やば』『鳥肌立った』『これがNSJのエース』
(……次元が違う。技術で挑んだら、百回やって百回負ける)
袖で見ていた来海の背に、冷たいものが伝う。隣のキララは——笑っていた。
「うん。決めた」
「キララちゃん?」
「技術じゃ勝てない。なら——**私の土俵**でやる」
◇
「Vmove's代表——蒼山キララ! いっくよーー!!」
彼女のステージは、一曲目から客席に飛び込んだ。
「はい、右側の星たちー! 声ちょうだい!!」
完璧とは言い難い歌声だった。音程は時々上ずり、息は上がり、ダンスの切れもリリカには及ばない。——なのに。
『たーのしい!!』『コールさせるの上手すぎw』『体が勝手に動く』
コメント欄が、揺れていた。リスナーを煽り、名前を拾い、失敗さえ笑いに変えて、キララは会場全体を一つのライブハウスに変えていく。緊張して光れなかった少女は、もうどこにもいなかった。
「ラスト! 全員でーー!!」
大合唱のような弾幕が、画面を白く染めた。
◇
結果発表。
『第一種目・歌対決——優勝、NSJコーポレーション・金銀銅リリカ!』
僅差だった。だが、負けは負けである。
「……そっかー。届かなかったかー」
袖に下がったキララは、天井を仰いで、大きく息を吐いた。悔しさを隠せてはいない。それでも、その顔はどこか晴れやかで——
「——ねぇ、あなた」
振り向くと、白鳥がいた。金銀銅リリカが、腕を組んで、真っ直ぐキララを見ていた。
「あなたの歌、正直に言うわ。……雑。音程も呼吸も、私なら絶対に許さないレベル」
「うっ。お、おっしゃる通りで……」
「でも」
リリカは、ほんの少しだけ、目を伏せた。
「……私のステージで、コメントは静まった。あなたのステージで、コメントは**歌った**。————悔しいくらい、楽しそうだったわ。あなたも、客席も」
「……!」
「次に戦う時までに、音程を直してきなさい。楽しいだけの星屑が、楽しくて上手い星になったら——私、負けるかもしれないから」
それだけ言って、白鳥は踵を返した。キララはその背中に、深々と頭を下げた。
「——ありがとうございました! 絶対、直してきます!」
(負けたのに、こんないい顔するのか。……ああ、そうか。この子は今日、"観客席の子"を完全に卒業したんだ)
◇
スコアボードに、点が入る。
『第一種目・歌対決 結果——1位:NSJ(+3)/2位:Vmove's(+2)/3位:spoV(+1)』
**【総合ポイント】NSJ:3 Vmove's:2 spoV:1**
「先制されちゃったね」
「ふはは、案ずるな来海! 次は余の戦場——企画対決である!」
マントを翻す小さな魔王を、クリスタの片眼鏡が、静かに光って捉えていた。




