「遂に開幕!12人、初手から全開」
V-1グランプリ・合同顔合わせ配信、当日。
三社共同開発の仮想会場「V-ARENA」には、三社のロゴを背負った十二のアバターが集結していた。フルトラッキングの同期技術により、アバターたちは同じ空間を実際に歩き、すれ違い、握手さえ交わせる。画面越しの掛け合いとは桁の違う"生"のやり取りが、開始前から随所で生まれていた。同接は開始前から十万を突破——業界の歴史が動く音を、誰もが聞いていた。
(すごい技術だな……距離感も、視線も、全部そのまま伝わる。つまり——**仕草でボロを出したら、そのまま伝わるってことでもある**。気を引き締めろよ、俺)
「では、各社自己紹介から参りましょう! まずはspoVさん!」
「……spoV、月影陽凪。銃で、最強」
狼耳フードを目深に被った、すらりと長身の影が、それだけ言って黙った。無口な怪物ゲーマーの九文字の自己紹介に、コメントが『情報量w』と沸く。登録者はspoV内トップの二百三十四万、spoVの看板である。
「アイボリー・ダーク・フロストⅡ世。……フン、この名を覚える栄誉をやろう。呼びづらければフロちゃんで構わな——きゃっ!?」
クールに決めようとした最強魔法使いは、背丈ほどの木の杖を床に倒し、慌てて拾おうとしてとんがり帽子を落とした。『もうフロちゃんじゃん』『かわいい』
「うちの姫が失礼! spoVの音響兵器、紫乃華スカーレット! 今日は機材の限界まで騒ぐぞオラァ!!」
「音量!! 配信の音量を考えて!!」
「拙者、誇楯剣と申す。剣において、負けを知らぬ身。……以後、お見知りおきを」
武士姿の絶世の美人が、折り目正しく一礼した。『所作が美しい』『この人だけ時代が違う』
「続いて、NSJコーポレーションさん!」
「オラオラ、待たせたな! NSJの野生児、エクス・ワイルドだ! 俺の配信は瞬き禁止——見逃した奴から置いてくぜ!」
腕まくりした赤シャツの男が吠え——その肩に、ちょこんと小鳥がとまった。
「……ん? ああ、こいつは相棒だ。かわいいだろ」
『ギャップで死んだ』『小鳥に優しい野生児』
「金銀銅リリカ。……歌で来たなら、覚悟なさい。それだけよ」
白鳥の歌姫は、たった一言で空気を張り詰めさせた。
「パモンド・クリスタですわ。先日の宣言通り——丁寧に潰して差し上げますので、どうぞよろしく」
「NSJの蒼ルビーです。皆さん、今日はよろしく。……ああ、これ? 三本目です」
紫髪の社長が、手元のエナジードリンクを軽く掲げた。『まだ昼だぞ』『社長の健康が心配』
「最後に、Vmove's四期生!」
「微分、積分、いい気分! 明野来海です!」
「VTuber法律事務所代表取締役兼、皆のアイドル! 法々ミハネです!」
「夜空から来ました、星屑アイドル・蒼山キララ! 今日は一番星、いただきます!」
「ふはははは! 配信界の頂点を狙う魔王、魂盛おうちゃまである! 全員まとめて余の踏み台となるがよい!」
『四期生元気だなw』『舐めプ組来たぞ』『お手並み拝見』
蒼山キララ、登録者七十二万。魂盛おうちゃま、六十五万。百万にも届かぬ若手二人が、各社の看板級が並ぶ舞台で胸を張っている——Vmove'sの"舐めプ"人選、ここに極まれりである。
——コメントの棘は、まだ消えていない。
◇
フリートークに入ると、火花は早速散り始めた。
「あら、ミハネさんは"代表取締役"でいらっしゃるのね。私、蒼ルビーと申します。以後お見知りおきを」
「これはご丁寧に! VTuber法律事務所の法々ミハネです! 名刺をどうぞ!」
「頂戴します。……ほう、いい紙を使ってますね」
「わかります!?」
仮想空間で名刺交換を始めた代表取締役二人に、『何やってんだw』『社長ごっこ尊い』とコメントが和む。
一方、こちらは不穏な火花である。
「四期生ちゃんたち、今日は逃げずにいらしたのね。偉いですわ」
「クリスタさん。うちの同期たち、口より手が早いタイプなんで——本番、楽しみにしててくださいね」
「ふふ。躾のなってない犬ほど、よく吠えますこと」
「おい待て令嬢、今なんつった!?」
(ミハネが煽り返して、キララが噛みついた……! おうちゃまは——高笑いしてるだけだな、よし)
そして燈哉は、別のことにも気を取られていた。
(——男の声だ。ワイルドさんも、ルビーさんも、当たり前みたいに男の声で、男のアバターで配信してる)
わかっていたことだ。男子禁制は、Vmove'sだけの規制。一歩外に出れば、男性VTuberなんて珍しくもない。
(もし俺が、最初からNSJやspoVに入っていたら——女装も、声も、こんな綱渡りも、全部要らなかったのかな)
「——来海さん? どうかしました?」
「あ、いえ! 何でもないです!」
(……よそう。俺が守りたいものは、もう"ココ"にあるんだから)
◇
配信終了間際。締めの挨拶に移ろうとしたその時、それまでほぼ一言も発していなかった狼耳フードが、ふいと来海のほうを向いた。
「……ねぇ」
「は、はい?」
「あなた、FPSの人。……配信、ぜんぶ見た」
「ぜ、全部!?」
「切り抜きも、ぜんぶ。……あなた、動きが、へん」
会場が、ざわりとした。
「へ、変って」
「——ほめてる」
陽凪は、フードの奥の金色の目を、すっと細めた。
「……あなた、つよい?」
一瞬の静寂。それから来海は、まっすぐに答えた。
「——本番で、確かめてください」
『うおおおお』『宣戦布告返しだ』『ゲーム対決が楽しみすぎる』
祭りの幕は、こうして完全に上がった。




