「舐めプと下剋上」
その発表は、業界に激震を走らせた。
『史上初・三社合同対抗戦「V-1グランプリ」開催決定! Vmove's×NSJコーポレーション×spoV——各社代表4名による、歌・企画・ゲームの三本勝負! 会場は三社共同開発の完全没入型仮想空間「V-ARENA」!』
VTuber戦国時代と呼ばれるこの業界で、覇を競い合ってきた三大事務所が、初めて同じ舞台に立つ。SNSのトレンドは一瞬で埋まり、考察と予想で世界が沸騰した。
会場もまた、前代未聞だった。Vmove'sのモーションキャプチャー技術、spoVのゲームエンジン、NSJの演出ノウハウ——三社の技術陣が結集して作り上げた完全同期型の仮想空間「V-ARENA」。フルトラッキングによってアバター同士が同じ空間に立ち、歩み寄り、物を手渡し、ぶつかり合うことすらできる。「画面越しの掛け合い」ではなく、文字通り「同じ舞台の上」で戦う、史上初の大会なのである。出場者は各社のスタジオから接続し、観客は好きな視点から観戦できるという。
そして三日後——Vmove'sの代表発表が、二度目の激震を呼んだ。
『Vmove's代表:明野来海/法々ミハネ/蒼山キララ/魂盛おうちゃま』
——四期生、4人。
『は?』『九帝は?』『Vmove'sトップの彼女を除いたとしても、ソロモンもソラもサツキも出さないのは流石にヤバくね?』『NSJもspoVもトップ4出してきてるんだが』『舐めてるだろ』『相手に失礼まである』
祭りの空気は、一夜にして荒れ模様となった。
◇
「——というわけで、大炎上中なんですけど。社長、どういうつもりですか」
深夜、燈哉は電話口で単刀直入に聞いた。
『おや、怒ってるのかい』
「怒ってはいません。ただ、理由は知っておきたい。俺たちが負けたら、会社ごと笑われる人選ですよ」
『……九帝はね、いつまでもいるわけじゃないんだよ』
社長の声が、少しだけ低くなった。
『七人になった九帝に、いつまでも看板を背負わせるわけにはいかない。次の看板は、お前たち四期だ。私はそう決めている。——それに』
「それに?」
『トップ同士の潰し合いなんて、誰でも組める。格下と笑われた若手が大物を食う——祭りが一番盛り上がるのは、そういう筋書きだろう?』
「……趣味が悪い」
『経営が上手い、と言いなさい』
◇
翌日、四期生はV-ARENAに用意された会議室に集められた。もちろん配信はされていない。ここでの声が世間に届くことはない、社内だけの非公開空間である。
「よ、よろしくお願いします……って、あれ? この並び、久しぶりじゃない?」
来海がそう言うと、テーブルの向かいで星がきらめいた——ように見えた。
「久しぶりだよ来海ちゃん! 熱海以来だね! あの卓球、私めっちゃ応援してたんだから! 賞品席の来海ちゃん、遠い目しててウケた!」
蒼のグラデーションの髪をツーサイドアップに結い、星形の髪飾りを揺らす少女——**蒼山キララ**。四期生の"星屑アイドル"である。歌とダンスに全振りした配信スタイルで、ライブ配信の熱量には定評がある。
(熱海では大人数に紛れてちゃんと話せなかったけど……この子、ずっとこのテンションなんだよな。太陽が二人いる感じ、美咲と並ぶと目が焼ける)
「ふはははは! よくぞ集った、我が精鋭ども!」
その隣で、小さな体に大きすぎる深紅のマントを翻す影があった。ふわふわの白銀のボブに、ちょこんと載った金の王冠——**魂盛おうちゃま**。自称・配信界の頂点を狙う"ちびっこ魔王さま"だ。
「此度の戦、余の軍門に降った以上、貴様らには働いてもらうぞ! 特に来海! 貴様のその武力、余のために振るうがよい!」
「軍門に降った覚えはないんだけど!?」
「ふはは! 細かいことを気にするな!」
(……おうちゃまと絡むのも、実はほぼ初めてなんだよな。熱海の宴会じゃ隣の席だったのに、配信と違ってやけに物静かで——箸の上げ下ろしが妙に上品だったのだけ、覚えてる)
同じ四期生。デビュー時期も近い。なのに、コラボ回避を貫いてきた燈哉にとって、この二人はずっと「グループチャットで挨拶する程度の同期」だった。熱海で少し距離が縮まり——そして今、戦友になる。
「はいはい、注目〜!」
ミハネが手を叩き、ホワイトボードの前に立った。
「炎上は把握してます。『舐めプ』『九帝を出せ』——言いたい放題言われてます。でもね」
にっ、と彼女は笑った。
「逆に言えば、私たちが勝ったら——**一番おいしい**ってことだよ」
「それな!!」
「ふはは、余もそう思っておった!」
「……うん。私も」
来海も、頷いた。
(社長の筋書きに乗るのは癪だけど——確かに、負けたままでいる理由はどこにもない)
「四期生、舐められたまま終わりません。——下剋上、始めましょう」
「「「おー!!」」」
◇
その夜。燈哉のスマホに、美咲から一本の動画リンクが届いた。
『これ見て。NSJの企画屋さん』
再生する。黒ボブに片眼鏡の令嬢が、タブレットを優雅に叩きながら、カメラ目線で微笑んでいた。
『あら、Vmove'sの代表発表、拝見しましたわ。四期生ちゃんたち——ふふ、格下に負ける準備は、こちらは一切できておりませんの』
パモンド・クリスタは、扇のように指を広げて宣言した。
『——潰しますわよ。丁寧に、完膚なきまでに、ね』
(……上等だよ)
燈哉は、静かにスマホを閉じた。




