↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
97/101

97. アルマ宮編(42) カウプテ邸

※主な登場人物は、作品あらすじ欄にまとめています。

ソルト伯爵邸を出たペルラとミリスは、馬車でカウプテ・パセリの屋敷へ向かった。


カウプテとは、今日一緒に北部へ戻る予定になっている。


昨夜も本来ならカウプテ邸に泊まるはずだったが、急遽アルマ宮に宿泊することになったため、結局一晩世話になることはなかった。


アルマ市内にあるパセリ家の屋敷は大きかった。


高い石塀の上には有刺鉄線が張り巡らされ、門の両脇にはパセリ家の私兵が立っていた。


黒い金属の門扉は幾何学模様の装飾が施され、その中央に大きなパセリ家の紋章が掲げられていた。


紋章には緑青が浮かんでいたが、一部には何かを削り取ったような跡が残っていた。


屋敷に入ると、二人は応接室へ案内された。


「昨日は、お部屋まで用意していただいていたのに、申し訳ありませんでした」


ミリスが使用人にそう伝えると、アルマ宮から連絡は受けているので気にしないように、と返された。


カウプテ様が来たら、昨日のアルマ宮での一件も聞いてみなくてはいけない。


二人がお茶を飲みながら待っていると、応接室の前を一人の男が通りかかった。


ミリスが顔を上げる。


「あ」


男も足を止めた。


「あ」


バサルク王太子のオーニチェだった。


カウプテは、オーニチェの母の末弟である。


親戚の家なのだから、確かにオーニチェがここにいてもおかしくないかもしれない。


「オーニチェ様! ご無沙汰しております」


ペルラが嬉しそうに挨拶した。


「ペルラ! 久しぶりだな」


オーニチェも笑顔になる。


オーニチェは、いつものバサルクの衣装ではなく、ムーンストーン風の服を着ていた。


ただし、ムーンストーンやアルマンディンの長剣ではなく、バサルクの短剣を腰に差していた。


「オーニチェ様、ムーンストーン風の服をお召しなんですか?」


「ああ、ペルラの前では初めてだったか。アルマでバサルクの服を着ると目立つし寒いからな。どうだ?」


「すてきです」


「そうか。それはよかった」


オーニチェとペルラはお互いに微笑んだ。


ミリスはお茶を一口飲んだ。


「ペルラの耳飾りも似合っている」


「ああ、耳飾り……ありがとうございます」


ペルラは自分の耳飾りに触れた。


「こちらはミリス様から、こちらはジュニパー様からいただきました」


ミリスはお茶を机に置き、ペルラの耳飾りをまじまじと見た。


――あの青い耳飾りが、ジュニパー様からの贈り物だったとは。


昨夜、見たことがない耳飾りだとは思ったが、それ以上は頭が回らなかった。


日の光の中で、優美な銀線の枠に嵌め込まれた大きなオパールが、南国の海のような青さを見せていた。


改めてよく見ると、宝石も細工も確かに上等だった。


「……そうだったか」


オーニチェは穏やかに返答した。


「こちらは実はミリス様と色違いのお揃いなんです」


ペルラは、髪を耳にかけて、赤銅色の宝石が埋め込まれた耳飾りを見せた。


「よかったな」


次にペルラはもう片方の青いオパールの耳飾りを見せた。


「こちらはジュニパー様に言われて、アルマ宮ではずっとつけていました。

来賓用の銀線の指輪の代わりです。

迷子になったらすぐわかるそうです。便利ですよね?」


「そうだな。便利だな」


オーニチェは頷いた。


「ところで、ペルラはアルマ宮にいたのか?」


「はい。一ヶ月おりました。これからようやく家に帰れます」


「一ヶ月も? バサルクから帰ってずっとか? ミリスも?」


オーニチェはミリスを見た。


「私は第三港湾にある家におりました」


ミリスが答えると、オーニチェは困惑の表情を浮かべた。


ペルラが説明した。


「オーニチェ様。アルマに来たら、ちょうど戒厳令が出て、民間人は出入りできなくなってしまったのですが、ジュニパー様がご親切に私をアルマ宮に泊めてくださったのです」


「……大変だったな。だが、通行許可は?」


「許可がなかなか降りなくて、困りました」


「そうだったか……」


オーニチェが何か言いたげにミリスを見た。


ミリスはその視線に気づかないふりをして、お茶に口をつけた。


少なくとも、ペルラの前でする話ではない気がした。


ミリスは少し間を置いて、オーニチェに尋ねた。


「オーニチェ様はなぜアルマに?」


「父上の腰が悪くて、アルマにいい整体師がいると聞いたので連れてきた。ついでにバサルクの整体師にも勉強させようと思っている。

そのアルマの整体師は、前の駐留軍総司令官を担当していたらしいぞ。知っているか?」


「ちょっとわかりません……」


「オーニチェ様はお優しいんですね」


ペルラが言った。


「ペルラほどじゃないがな」


オーニチェは微笑んだ。


ミリスは無言のまま、お茶をまた一口飲んだ。


その時、廊下の向こうから大きな声が聞こえてきた。


「あー、ダメだ、ダメだ! オーニチェ! どこだ?」


オーニチェは応接室の椅子に座ったまま、声を張った。


「ここでーす」


「ここじゃわからないだろ!」


声が近づき、やがてカウプテが応接室に姿を現した。


「あ、ミリスとペルラ様。すまない。ちょっと待っててくれるか?」


そう言うと、すぐにオーニチェへ向き直る。


「オーニチェ、ダメだ。整体師は今日は定休日らしいぞ」


「ええ〜?」


「ええ〜はこっちのセリフだ」


「早くても明日ですか」


「そういうことだな。でも、やっぱり初回は私が一緒に行った方がいいだろう」


「そうですね」


「バサルク王家と名乗らないつもりだろう」


「できれば、はい……」


カウプテは腕を組んだ。


「仕方がない。出発を明日に遅らせるか」


ミリスがぼんやり二人の会話を聞いていると、カウプテがこちらを向いた。


「そういうことだ、ミリスとペルラ様。申し訳ない。アルマを出発するのは明日にしてくれないか」


ミリスは瞬いた。


自分にも関係のある話だったらしい。


「あの、僕は構いませんが、第三港湾の司令部に連絡しないと……」


「ああ、連絡はしておく。今夜はうちに泊まってくれ。

ペルラ様も、申し訳ない」


返事がない。


ミリスが見ると、ペルラはうつむいたまま、頭が小さく揺れていた。


うとうとと舟をこいでいる。


「ペルラ、大丈夫か?」


ミリスは小声で言って、ペルラの腕に触れた。


「……!」


ペルラは目を開けた。


「すみません、ボーッとしちゃって……さっき、お昼にアルマ宮でごちそうをいただいたから、ちょっとおなかがいっぱいで……。

何のお話でしたか?」


「出発が明日に延びた」


「ああ、そうなんですね……」


ペルラはゆっくり答えて、ミリスににっこり笑った。


「横になって寝たらどうか?」


オーニチェが言った。


「どうせ出発は明日なんだし、今日はゆっくりすればいいじゃないか」


そして近くにいた使用人へ顔を向ける。


「ペルラを客室に案内して」


「はい」


ペルラは使用人に案内され、応接室を出ていった。


扉が閉まる。


カウプテがオーニチェを見た。


「おいおい、私の家だぞ……」


「あっ、すみません」


オーニチェが軽く頭を下げた。


「まあ、どのみち休んでもらった方がいいと私も思うが……」


カウプテは呆れたように息を吐いた。


「これだから王子様は……」


「いやいや、パセリ家に比べたら、本当にウチなんて大したことありません」


「いやいや」


「いやいや」


ミリスは黙って茶をすすった。


カウプテは使用人の方を振り返った。


「そういえば、オーニチェに頼まれてた物、買ってきたんだろう? 持ってきてくれ」


ほどなくして、使用人がいくつもの箱や包みを持って戻ってきた。


テーブルの上に次々と置かれていく。


「なんかいっぱいありますね……」


ミリスが言う。


「だろう?」


カウプテがわざとらしくため息をついた。


「申し訳ない。助かります」


オーニチェが殊勝な態度で頭を下げた。


「人使いが荒いんだよ」


「買ってきたのはカウプテ様じゃないですよね?」


オーニチェが反論した。


「似たようなものだろう」


カウプテは一つずつ品物を確認し始めた。


「これが腰にいい薬」


「ああ、これこれ」


「これが腰にいいお茶」


「これね」


「これが腰にいいお菓子」


「うん」


そして、最後に一枚の絵を取り出した。


「これが腰にいい絵」


「ありがとう」


ミリスは絵を見た。


「……絵? 効くんですか?」


オーニチェはミリスを見た。


「効くわけ……ないだろう!!」


「じゃあ、どうして買ったんですか?」


「父上が新聞の広告欄で見つけたからだ!」


カウプテが、笑いを噛み殺しているのか、まじめなのかわからない顔で言った。


「信じることが大切だ」


オーニチェは絵を巻いて筒にしまうと、筒をミリスに向けた。


「そうだそうだ。人としての純粋な気持ちを失ってはいけないぞ、ミリス」


ミリスは下を向いて、こみ上げる笑いを隠した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。