89. アルマ宮編(34) 廊下
※主な登場人物は、作品あらすじ欄にまとめています。
ジュニパーとペルラは、大広間を離れて廊下を歩いていた。
少し後ろを、ジュニパーの護衛とランがついてきていた。
廊下の片側には、大きな窓が並んでいた。
反対側には、それと同じ形の鏡が等間隔に並んでいる。
祝賀会の日らしく、頭上のシャンデリアにはすべて明かりが灯っていた。窓から差し込む午後の光も鏡に映り、廊下は眩しいほど明るかった。
「せっかくこの階に来たから、ペルラにいいものを見せてあげる」
ジュニパーは楽しそうに言った。
「いいものですか?」
「何だと思う?」
ペルラは少し考えた。
「王冠とか?」
「違いま〜す」
ジュニパーは笑った。
「じゃあ……絵ですか?」
「正解! さすが!」
「だって、こんなに絵が……みんなわかりますよ!」
ペルラは辺りを見回した。
やがて窓はなくなり、両側の壁には絵が並ぶようになっていた。
廊下は変わらず明るかったが、大広間のざわめきはもう聞こえなかった。
「あれ? ランは?」
さっきまで後ろを歩いていたランの姿がない。
それどころか、ジュニパーの護衛たちもいなくなっていた。
人の気配がない。
「ああ、部屋に戻ったんじゃない? ほかの仕事もあるだろうし」
ジュニパーが言った。
「警備ならその辺に十分いるから、安心して」
ペルラは頷くと、今度は絵を見回した。
「ジュニパー様は絵がお好きですものね。アルマ宮には絵がたくさんあって、よかったですね」
「まあ、そうだね」
「……あまりうれしくありませんか?」
ジュニパーは立ち止まって、壁の絵を見上げた。
「きれいな絵をたくさん飾っても、ここはきれいにならない……」
「そうなのですか……?」
「だって、ペルラがいないから」
ペルラは息を呑んだ。
ジュニパーを見る。
「ジュニパー様……」
何と言っていいか、わからなかった。
「ペルラ……」
ペルラは必死に考えた。
頭がグルグルした。
そして、思いついた。
「ジュニパー様、寂しくありませんわ」
「なんで? 寂しい、寂しい、寂しいよ!」
ジュニパーは訴えるように言った。
「私たち、お友達になればいいのです!」
ジュニパーは一瞬、驚いたように目を見開いた。
「……友達に?」
「はい」
すぐに、ジュニパーはいつもの王子らしい笑顔に戻った。
「ああ、そうだ。友達になればいいね? どうして思いつかなかったんだろう?」
ジュニパーはまた歩き出した。
「そうです。そうしたら、また会っておしゃべりできますよ」
ペルラは努めて明るい声で言った。
「僕、友達ができたの、初めてだよ」
「あら、そうなんですか?」
「うん。ペルラが初めての友達でうれしい」
ジュニパーの笑顔を見て、ペルラは安心した。
「私もうれしいです」
「ねえ、ペルラ」
ジュニパーの顔から笑みがスッと消えた。
「どうやって友達でいるか教えてよ」
鋭く鮮やかな瞳が、ペルラを見た。
ジュニパーの後ろ、廊下のずっと遠くまで、輝く巨大なシャンデリアが連なっていた。
「どうやって……?」
ペルラは言葉に詰まった。
ジュニパーは少しして、にっこり笑った。
「次はいつ会う?」
「ええっと……ミリス様にも聞いてみないと……」
「なんで?」
ジュニパーは不思議そうに笑った。
「僕もお願いしてみる。きっと大丈夫だよ」
「でも、アルマは遠いですし……私一人では来られませんわ」
「ああ、足の都合?」
ジュニパーはすぐに答えた。
「僕の馬車を出すよ。ミリスも忙しいだろうからね」
「あっ、ありがとうございます」
「僕も第三港湾に行くよ。ペルラがアルマに来るのと交互でいいんじゃない? その方が気持ちも体も楽でしょ?」
そう言われれば、そんな気もした。
「ええっと……そうかも……?」
ジュニパーは満足そうに頷いた。
「友達って、離れているときは何をするの?」
「お手紙を書いたり……」
「じゃあ、手紙だね!」
ジュニパーは嬉しそうに言った。
「手紙、書くね!」
「ありがとうございます」
「ありがとうございます、じゃないよ。ペルラも書いてよ?」
ジュニパーは少し口を尖らせた。
「もちろん書きます」
ペルラは笑った。
「書きたくないときは、書かなくてもいいんだよ?」
ジュニパーは微笑んだ。
「え?」
「文字じゃなくても、気持ちが伝われば友達でしょ?」
澄んだ、優しい目だった。
「そうですね。では、絵にしますか?」
そう言ってから、ペルラはうつむいた。
「あっ、でも、考えてみれば、ジュニパー様に絵を送るのは恥ずかしいです……」
「気にし過ぎだよ。僕も上手いわけじゃないし。好きなだけだよ」
ペルラは首を小さく横に振った。
「とってもお上手ですよ!」
「字や絵じゃなくてもいいよ。ペルラは花が好きだから、押し花とか」
「押し花? ロマンチックですてきですね」
ペルラの顔がパッと明るくなった。
「今日の香水でもいいし」
「大人の女性みたい!」
「今日食べたお菓子の包み紙でもいいよ」
ペルラは思わず笑った。
「そんなの捨てる物じゃないですか!」
「僕は捨てないよ?」
「なんでですか? ありさんが来ちゃいますよ」
「そうかもね」
ジュニパーは笑った。




