87. アルマ宮編(32) 祝賀会
※主な登場人物は、作品あらすじ欄にまとめています。
勲章授与式の日。
午後、アルマ宮の大広間では、授与式後の祝賀会が開かれていた。
その日の朝、ミリスがカウプテの同伴者として、今日の祝賀会に出席することを、ペルラはアニスから聞いた。
翌日にペルラをアルマ宮に迎えに来る手筈になっていることも、初めて聞いた。
――今ミリスがアルマ宮にいる。
ペルラは祝賀会には招かれていなかったが、そう思うと、上階でじっとしていることはできなかった。
ペルラはランに頼み、しばらく過ごしていた上階から下へ降りた。
大広間へ入ることはできないため、会場の外の廊下から、そっと中の様子をうかがった。
正装した軍人や貴族たちが大勢行き交っていたが、ミリスの姿は見つからなかった。
ペルラがもう少しよく見ようとしたとき、廊下の向こうから二人の男性が歩いてきた。
若い男性の方は、カシュー・ソルトだ。
ということは、何となく見覚えがある隣の男性は、カシューの父のソルト伯爵だろう。
カシューは、兄ベルデの友人である。
同じ伯爵家同士で、幼い頃からそれなりに付き合いがあったらしい。しばらく疎遠になっていたものの、最近はまたベルデと親しくなり、ベトーラ邸にも何度か遊びに来ていた。
ペルラ自身は、それほどよく知っているわけではない。数回、挨拶程度の会話を交わしたことがあるだけだ。
王都では、夜遊びが激しいことで有名で、とうとう婚約を破棄されたと聞いた。
ベルデは、悪い奴ではないが、婚約や結婚の相手には勧められないと言っていた。
「ソルト伯爵様。カシュー様」
ペルラが声をかけると、二人は足を止めた。
「ペルラ・ベトーラです。
このたびは、ご受章おめでとうございます」
「ありがとうございます」
ソルト伯爵は一瞬、何かに気づいたような顔をしてから、頭を下げた。
カシューも軽く一礼した。
「お久しぶりです、ペルラ様」
「お久しぶりです」
ペルラも挨拶を返した。
それから、大広間の方へ目を向けた。
「あの……ミリス・ヘーゼル様をご覧になりませんでしたか?」
ソルト伯爵とカシューは答えた。
「いいえ、私はお会いしていません」
「僕も見ていません」
ペルラはぎこちなく微笑んだ。
「そうでしたか。どうもありがとうございます」
ソルト伯爵が言った。
「今日はミリス様と一緒ですか?」
ペルラが答えるより早く、ペルラの背後から足音が近づき、穏やかな声が答えた。
「いいえ」
ペルラが振り返ると、青いオパールの耳飾りがシャンデリアの光を受けて煌めいた。
ジュニパーが立っていた。
「ああ、いたいた。探したよ」
「あ、ジュニパー様……」
ペルラは驚いた。
ミリスのことで頭がいっぱいで、ここでジュニパーに会うかもしれないとは考えていなかった。
ジュニパーは笑みを消し、ソルト伯爵とカシューを一瞥した。
二人はジュニパーに一礼し、その場を離れた。
ジュニパーは再びペルラに笑顔を向けた。
「ここで、どうしたの? あの階を出たら危ないよね?」
「申し訳ありません」
ペルラは頭を下げた。
ジュニパーは心配して、自分をアルマ宮に置いてくれている。
一番警備の手厚い上階から出なくてもいいように、何もかも手配してくれていた。
それなのに、自分からそこを出てきてしまった。
「あの……ミリス様が祝賀会に来ていると聞いて……すみません」
「ああ、そうなんだ?」
ジュニパーは責めることもなく、いつものように微笑んだ。
「会いたくてね? それで、会えた?」
「いえ……」
「そう。残念だね」
ジュニパーも少し悲しそうな表情をした。
「はい……」
「人が多いからねえ。僕も見かけなかったよ」
少しして、ジュニパーが言った。
「ミリスは明日来るよ。明日には会える」
「そうですね。明日ですものね」
ペルラは微笑んだ。
ジュニパーの優しい励ましで、少し胸が軽くなった。
「行こうか? ここは風が通って寒いし、もうお腹が空いたでしょう? 夕食を食べに行こう」
「ジュニパー様は、祝賀会で召し上がったのでは?」
「何を言ってるの?」
ジュニパーは不思議そうに笑った。
「ペルラとの最後の晩餐なのに。祝賀会で僕が食べるはずないよね?」
「最後の晩餐なんて大袈裟ですよ。ジュニパー様ったら」
思わず笑うと、ジュニパーも嬉しそうに笑った。
「あ、ペルラが笑った」
ジュニパーが喜ぶのを見て、ペルラも気持ちが和らいだ。
「こっちだよ」
ジュニパーは大広間から奥へ続く廊下へ歩き出した。
「はい」
ペルラはその後をついていった。




