84. アルマ宮編(29) 思い出
※主な登場人物は、作品あらすじ欄にまとめています。
総司令官執務室で、ジュニパーは机の向こうに座り、アニスとヴィレンスはその前に立っていた。
「ペルラ、帰っちゃうのか」
アニスから話を聞き終えると、ジュニパーは少し残念そうに言った。
「しょうがないなぁ」
「しょうがないって……だいぶ長くお付き合いいただきましたよ?」
アニスは呆れたように言った。
「ペルラ様がお優しい方でよかったです。本当に」
ジュニパーはアニスを見た。
「アニスも優しいよね?」
「ん?」
「優しいアニスなら、最後にもう一個、遊びに付き合ってくれるよね?」
ジュニパーはにこにこと笑っている。
アニスも微笑んだ。
「優しいアニスですが、付き合うかどうかはモノによりますよ?」
「僕、隠れ家が欲しい」
「隠れ家ぁ?」
アニスは眉を寄せた。
「王族が隠れてどうするんですか。見られるのが仕事ですよ」
「隠れ家をペルラに見せて、驚く顔が見たい」
「ジュニパー様がペルラ様をどうしようが、私は興味ありませんが……程々にしてくださいよ?」
「はじめは驚くけど、その後はきっと楽しんでくれると思うんだよね」
「……私の言ったこと、聞いてましたか?」
「うん、聞いてた」
ジュニパーは笑顔で頷いた。
「程々なら驚かせていいんでしょ?」
アニスは小さくため息をついた。
「とにかく、あと少しでお帰りいただくんですから、支障がないようにお願いしますよ」
「は〜い」
ジュニパーは素直に返事をした。
それから、机の上に置いてあった左手の石膏像を、自分の身体の前へ引き寄せた。
「ペルラがアルマ宮を忘れると困るからね」
「忘れたくても忘れられないと思いますけどね?」
ジュニパーは石膏像に手を添え、微笑んだ。
「そう?」
「悪い意味で」
一瞬の間があった。
「あはははは!」
ジュニパーは目元を片手で覆い、声を上げて笑った。
「いい意味で忘れないように願ってるよ。僕は」
そう言うと、机の上の白い左手を、指先でゆっくりとなぞった。




