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82.【閑話】ヘーゼル侯爵邸の夕べ

※主な登場人物は、作品あらすじ欄にまとめています。

夕方、ルビーが帰宅すると、居間には父のヘーゼル侯爵がいた。


「ただいま!」


「おかえり……」


「あ、パパ! まだいたの?」


「うん。パパは疲れたから、今日じゃなくて明日戻ることにしたんだ」


「あっ、そう」


ルビーは自分の部屋に向かいかけて、ふと何か思い出したらしく、侯爵の向かいに座った。


「そうだ! 今日ね、昼過ぎにベルデ様が激怒して王宮にいらして、近衛のみんなで止めるの大変だったんだよ!」


「そうか……」


「陛下はいなくなっちゃうし!」


「そうか……」


侯爵は穏やかに頷いた。


「それでね、ベルデ様、その時に『こぉの! ミリスがぁああ! 早く言えよ!』って叫んでたんだけど、まさかお兄様のことじゃないよね?」


「どうだろうな……ミリスって名前はお兄ちゃんだけじゃないからな…」


侯爵は微笑んだ。


「それから、『こぉの! ヘーゼル侯爵家ぇ! 許さん! ペルラをアルマンディンに連れていくなんて、反対だったんだぁ!』って吠えてたんだけど」


ルビーは侯爵の目を見た。


「まさかウチのことじゃないよね?」


「そうだな……うちの他にヘーゼル侯爵家があるか調べる必要があるな……」


侯爵は少し震える手でティーカップを持ち上げると、微笑んだ。


「あとね、『こぉの! ジュニパーをちゃんと見とけよ!! どうなってんだよ! 腐れ駐留軍がっ!』って連呼してたけど」


ルビーは少し声を落とした。


「まさか、不敬罪にならないよね?」


侯爵は紅茶を飲んで少しむせた後、微笑んだ。


「陛下がいなかったなら、きっと大丈夫なんじゃないか?」


ルビーは侯爵を見て、うれしそうに言った。


「そっか! よかった〜! 安心したよ、パパ」


「そうか、よかったな……」


侯爵は微笑んだまま、小さく言った。


頬がわずかに引きつっていた。


「そういえば、御前会議で何言われたの? 今日あったんでしょ?」


侯爵の手がまた少し震えて、ティーカップがソーサーの上でカタカタと音を立てた。


「そうだな……」


侯爵はティーカップをテーブルに置くと、窓を見た。


だが、すでに使用人がカーテンを引いており、外は見えなかった。


「世界には色々、不思議なことがあるねえって話だったよ」


侯爵はぼんやりカーテンを見つめた。


もう視線を動かすのも億劫だった。


「ふーん?」


ルビーは首をかしげる。


「まあいいや……」


ルビーは侯爵の視線の先を追った。


「パパ、カーテン見てるの?」


「あ、いや……そうだな……」


侯爵はルビーを見た。


「パパ、なんか朝より痩せたね!!」


「うん。最近、健康に気をつけてるんだ……」


ヘーゼル侯爵は口角を上げた。


「健康には笑いが大切らしいぞ。わっはっはっは……」


ルビーは立ち上がると、使用人を呼びに行った。


「ねえ〜誰かいない? パパがおかしいのー」


〜【閑話】おわり〜

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