80. アルマ宮編(26) 髪型
※主な登場人物は、作品あらすじ欄にまとめています。
朝、ペルラは鏡台の前に座っていた。
「今日はどうなさいますか?」
侍女のランがペルラの髪を梳かしながら訊いた。
「ええと……そうね……」
「先日、ジュニパー様がお褒めになっていた髪型にしますか?」
ペルラは鏡を見た。
家ではディアバスが子供の頃からずっと結ってくれていた。ディアバスは、いつも髪型を訊かなかった。ペルラが髪型に興味がないのを知っていて、適当に日替わりで結ってくれていた。
バサルク王宮では、よく冠をつけていた。冠をつける日は、中に綿を入れて大きく結っていた。冠はきれいだったけれど、重かった。
ミリスと一緒に暮らすようになってからは、自分で結っていたから、簡単な髪型ばかりだった。
鏡の中で、ミントグリーンの髪の間から耳飾りが覗いていた。
ミリスからもらった、小さな赤銅色の宝石の耳飾り。
そして反対側には、ジュニパー様にいただいた、青いオパールの耳飾り。
見慣れた姿だった。
「あの……? もちろん他のでも、お好きな髪型で……」
ランの声で、ペルラは顔を上げた。
「ああ、いえ。その髪型にしてください」
ペルラは微笑んだ。
「ジュニパー様、褒めてくださってましたか? もうどれがどれだか……私、覚えきれないんです」
ランは笑った。
「あらあら。あれほど殿下は喜んでいらっしゃるのに……勿体ないですわ」
「そうですね……。喜んでいただけて、うれしい……」
ペルラはそう言ってから、鏡の中の自分をもう一度見た。
「うれしい気もするし……遠い出来事のような気もするんです。どうしてでしょうか?」
ランは髪に香油を付けた。
「まあ、どうしてでしょう。それは最近のことですか?」
「わからないんです……。自分でも、よくわからなくて」
ペルラは少し黙った。
「あの……」
ペルラは鏡越しにランを見た。
「私、どうしてジュニパー様とうまくお話しできないのでしょう……」
ペルラは目を伏せた。
「何とお返事したらいいのか、わからなくなるときがあって……」
ランの指が、静かに髪を整えていた。
あるべき位置へ、着々と、髪の束が固定されていく。
「ペルラ様は、少しお疲れなのではないでしょうか?」
ペルラは少し考えた。
「そうでしょうか? 私はここで何もしていないのに……」
ランは黙ったまま、簪を手に取った。
冷たく尖った金属が、頭皮をかすめて、編まれた髪の毛を貫いた。
「あっ、そうだ!」
ランが不意に明るい声を出した。
「気分転換に、お外で朝食を召し上がりますか?」
ペルラが笑顔になった。
「すてき!」
ランは鏡の中で満足そうに頷いた。
「では、すぐに中庭にテーブルをご準備しますね」
「中庭……」
ペルラはゆっくり窓の外の空を見た。




