78. アルマ宮編(24) 結婚
※主な登場人物は、作品あらすじ欄にまとめています。
アニスは机の上の書類を眺めながら、ヴィレンスに声をかけた。
「ペルラ様の件だけど、前に王立学校で同じようなことがあったって言ってたよな?」
「はい」
「その時はどうした?」
「陛下がお止めになりました」
アニスは顔を上げた。
「止まったのか?」
「……対外的には」
アニスは鼻で笑った。
「本当は、ペルラ様をアルマンディンの有力貴族の養女にして、ジュニパー様と結婚させれば、アルマ宮は安泰なんだがな」
ヴィレンスはいつも通りの無表情で、黙って立っていた。
「別に、ペルラ様がお疲れでも問題はない。周りが支えればいい。ジュニパー様にだって、そうしているだろう?」
「はい」
「ただ、いていただければいいんだ」
アニスは椅子の背にもたれた。
「だが、ミリス・ヘーゼルが婚約解消に同意しないだろうな」
先日、この部屋に来たミリスの顔を思い出す。
アニスは少し笑った。
「ヘーゼル侯爵家を調べ上げて、追い落とすか?」
ヴィレンスをチラリと見た。
「……それが国王の意思なら」
「どうせ陛下は、いつもの『ジュニパーのことは任せた』だろう」
アニスは肩をすくめた。
「忠実な副官として、ジュニパー様の希望は叶えて差し上げたい。
どうだ、見上げた心がけだろう?」
「…………」
「さっき軍政長官に会ったから立ち話したら、『ジュニパー様とペルラ様の結婚も悪くないね〜』って言ってたぞ」
アニスは軍政長官の口調を真似て言った。
それから腕を組んで、少し考えた。
「まあ、でも、まだ一回目だからな」
「アルマンディンでは」
「そう。アルマンディンでは一回目。王立学校と合わせたら二回目か」
アニスは指先で机を軽く叩いた。
「我々もヒマじゃないし、次が起きたら、その時に再検討するか?」
そう言って、机の端に置いてあった手紙を手に取る。
「ペルラ様の兄上の王都守備隊副隊長に恨まれても、何かと厄介だ。ミリスの家もヘーゼル侯爵家だし、その上、名門パセリ家もペルラ様のことを気にかけているようだからな」
カウプテから届いた手紙を、ひらひらと振った。
「あ!」
アニスは急に明るい声を出した。
「ペルラ様がジュニパー殿下と結婚して、栄光あるムーンストーン王家の一員になるなら、兄上には感謝されこそすれ、恨まれるはずないよな? うっかり言い間違えたよ! あははは」
アニスは手紙を引き出しにしまった。
「もし、何回も同じようなことがあれば、ミリスも対応に疲れて婚約に嫌気がさすかもしれないし。自然とな」
そして、目を閉じた。
「ああ、噂だって色々流れるかもしれないな」
そう言うと、口元だけ、わずかに笑った。
「まあ、いい」
アニスは目を開けて、椅子から身体を起こした。
「ペルラ様をアルマ宮に引き留めるのは今じゃない。今回はペルラ様をミリスの元へ返す」
「はい」
「ということは、だ」
アニスはヴィレンスの目を見た。
「戒厳令を取り消せるのは、アルマが安全な場合か、もしくは……安全だという報告が上がってくる場合だな?」
「はい」
「ああ、平和っていいものだよな。今から二、三週間は、特に平和であってほしいなあ。ヴィレンス」
アニスは楽しそうに笑うと、お茶を飲んだ。




