75. アルマ宮編(21) ココア
※主な登場人物は、作品あらすじ欄にまとめています。
夕食の後、ペルラとジュニパーはサロンのソファに並んで座っていた。
ジュニパーが今日あったことを話していたが、ペルラは、いつの間にかぼんやりと絨毯の模様を眺めていた。
「……ペルラ、聞いてる?」
「……!」
ペルラは慌てて顔を上げた。
「すみません。ちょっとぼんやりしていました。何のお話でしたっけ……?」
「ああ、通行許可のこと。今日、みんな忙しそうで聞けなかったって話ね。ごめんね」
「いえ、ジュニパー様はお仕事が大変ですもの。仕方ありませんわ。通行許可のことを気にかけてくださって、ありがとうございます」
「いつも気にかけてるよ? 当然だよ」
「ありがとうございます」
ペルラは笑った。
「ペルラのことなら、何でも気にしてるよ?」
ジュニパーは微笑んだ。
「えっと……?」
少し首をかしげたペルラを見て、ジュニパーは続けた。
「最近、あんまり夜眠れてないって聞いたよ?」
「あの……そういう時もあって……」
「どうしたの?」
心配そうに覗き込まれ、ペルラは困ったように笑った。
「どうしたんでしょう……。自分でもよくわからなくて。もっと運動したら、疲れて眠れるのでしょうか……?」
「運動もいいかもね。ダンスの練習する?」
「そうですね……。そうした方がいいのかもしれません」
「したくなかったら、しなくていいんだよ?」
ジュニパーは少し考えてから、パッと顔を明るくした。
「あ! 寝る前にブランデー入りのココアを飲むのはどう?」
「おいしそうですね。いいですね」
「うん、おいしいよ」
ジュニパーはペルラを黙って少し見つめた後、静かに言った。
「……ミリスに会えなくて寂しい?」
「……はい」
口に出してしまうと、ペルラは急に胸の奥が詰まった。
第三港湾を出てから、もうずいぶん長い気がする。
「そうだよね」
ジュニパーの声は優しかった。
「僕はミリスにはなれないけど、それでもそばにいるよ。少しでもペルラが寂しくないように」
「ありがとうございます。ジュニパー様は本当に優しいですね」
ペルラは笑おうとした。
「私も元気を出さないとダメですね」
「無理しなくていいんだよ、ペルラ。泣きたい時は泣いていいんだよ」
ジュニパーは少しだけペルラの方へ身体を向けた。
「僕はミリスじゃないけど、抱きしめることはできるよ」
「ジュニパー様……。ダメ……そんなこと言われたら、私、涙が出そうです……」
そう言った途端、本当に涙がこぼれた。
ペルラは慌てて目元を押さえたが、次々と涙が出てくる。
ジュニパーは何も言わず、ペルラをそっと抱きしめた。
ペルラの顔が胸元に隠れると、ジュニパーの口元から笑みが消えた。
「……すみません。ありがとうございます」
ペルラがようやく顔を上げると、ジュニパーの胸元が少し濡れていた。
「お召し物まで濡らしてしまって……ごめんなさい」
「少し落ち着いた?」
ジュニパーは微笑んだ。
「はい」
「服のことは気にしなくて大丈夫だよ」
そして、ジュニパーは何かを思いついて、声を弾ませた。
「そうだ! 僕、後でココアを持って行ってあげる!」
「え?」
「毎晩持っていくよ。
ペルラが寂しくないように、寝るまでそばにいるから」
「えっ? でも、そうしたらジュニパー様が眠れなくなってしまいます」
「大丈夫、大丈夫。寝なかったら、ペルラとたくさん話せるよ。楽しみだ」
「そっか……そうですね!」
考えているうちに、ペルラは少し気分が明るくなった。
「楽しみになってきました」
ジュニパーは嬉しそうにペルラを見た。
「ペルラが笑ってくれて、よかった」
「あ……私……」
さっきまで泣いていたことを思い出して、ペルラは少し恥ずかしくなる。
「いいんだよ、気にしないで。ペルラの笑ってる顔も、泣いてる顔も、全部僕の宝物だよ」
「あの……」
「困った顔もね」
「ちょっと……」
ますます困って、ペルラは頬を赤くした。
ジュニパーは楽しそうに笑う。
「今日は寝顔も見られるかもね?」
「もう、ジュニパー様ったら!」
ペルラは笑った。




