72. アルマ宮編(18) 相談
※主な登場人物は、作品あらすじ欄にまとめています。
第三港湾司令部の窓から見える青い海は、今日も煌めいていた。
北部統監のカウプテが第三港湾を訪れたその日、仕事がひと段落したところで、ミリスは声をかけた。
「カウプテ様、少しご相談してもよろしいでしょうか」
「ミリスか。どうした?」
「ペルラが、アルマ宮から帰ってこないんです。手紙も何通か出しているのですが、返事がありません」
ミリスは事情を一通り説明した。
カウプテには他人事に思えなかった。
ペルラは、甥のオーニチェとディアバスが長い間大切に思っている女性だった。
「そんなことになっていたとは。
アルマの戒厳令が長引いているとは思っていたが」
「そんなに、いつもより危ないんでしょうか?」
ミリスは不安そうに尋ねた。
「そんなわけないだろう」
カウプテはあっさり言った。
「いつもと同じだ。少なくとも、私の知っている限りは」
窓の外の海は、今日も穏やかで、多くの船が行き交っていた。
「戒厳令は、いつ解除されるのですか?」
「わからないな。第三港湾からアルマへ行く途中に賊が出たことが本当に理由なら、十年くらい解除されないんじゃないか?」
カウプテは少し笑った。
「戒厳令が出ている間は、民間人は許可なく移動できないと聞きましたが……」
「その通りだ。総司令官の名前において発行される許可証が必要になる」
「それもジュニパー様か……」
ミリスは顔を手で覆った。
「まあ、普段、実質的に動いているのは副官のアニス様だろうが……アニス様とは面識があるのか?」
「使節団の任務で、二回お会いしました」
「二回か。微妙だな……」
カウプテは少し考えた。
「でも、アニス様はムーンストーンの中央貴族の方だ。同じ中央貴族のミリスならお話ししやすいかもしれないぞ。相談してみる価値はある」
「そうでしょうか……。やってみるしかないですね」
ミリスは表情を引き締めた。
「ただし」
カウプテの声が低くなった。
「今、お前の手紙はすべて検閲されていると思え」
ミリスは目を見開いた。
「僕なんかの手紙を……?」
「よく考えてみろ。
ジュニパー様は、ペルラ様ひとりのためにアルマ全体の戒厳令を発令した可能性がある」
カウプテは続けた。
「お前の手紙は、もしかしたら直接ジュニパー様のところに回されているかもしれないぞ」
――だから返事が来ないのか?
「では、アニス様に直接会いに行くしかない……?」
カウプテは即座に答えた。
「いや、お前は任務以外で第三港湾を離れられないだろう? 駐留軍の規定でそうなっているはずだ」
ミリスはため息をつくと、力なく椅子にもたれた。
「どうなってるんだ、アルマンディンは……? ここはジュニパー様の国なのか?」
壁にかけられた駐留軍の旗が目に入った。
アルマンディン領の紋章もあるはずだが、こちらに来てから見るのは駐留軍の紋章ばかりだった。
「そういうわけではないんだが……まあ、ある意味そういうところもあるな」
カウプテは少し困ったように笑った。
ミリスは天を仰いだ。
――最悪だ。
軍政が敷かれているアルマンディンでは、何をするにも、結局、総司令官のジュニパー様に辿り着いてしまう。
カウプテはそんなミリスをしばらく見ていたが、口を開いた。
「近々、東部統監のソルト伯爵に会う予定がある。ミリスのことは相談してみよう」
「ありがとうございます」
ミリスは姿勢を正した。
「あとは、お前がアルマに行ける用事も考えておこう」
カウプテが微笑んだ。
「……ありがとうございます」
ミリスは深く頭を下げた。




