71. アルマ宮編(17) 靴
※主な登場人物は、作品あらすじ欄にまとめています。
ペルラは中庭で、鉢に土を詰めていた。
夢中になって作業をしていると、後ろから声がした。
「頑張ってるね」
振り返ると、ジュニパーが立っていた。
「ジュニパー様、こんにちは」
ペルラが笑顔を向ける。
頬には少し土がついていた。
ジュニパーはそんなペルラを眺めてから、少し遠慮がちに尋ねた。
「今、忙しい……よね?」
「いいえ、大丈夫ですよ。少しだけお待ちください」
ペルラは室内へ戻り、手についた土を丁寧に洗った。
しばらくして、部屋にペルラが入ってきた。
「お待たせしました」
ところどころ土のついたドレスの裾をつまみ、ペルラは優雅にお辞儀をした。
ジュニパーは嬉しそうに言った。
「実は、頼んでた靴が仕上がったんだ」
「靴……ですか?」
ジュニパーは持ってきた木箱を開けた。
中には艶やかな布が収められている。
布には、銀糸でムーンストーン王家の紋章が刺繍されていた。
ジュニパーがその布を開く。
中から現れたのは、銀色のハイヒールだった。
艶のある靴地には、青や無色透明の大小の宝石がびっしりとあしらわれている。
光を受けるたび、細かな輝きがこぼれた。
「わあ……」
ペルラは思わず声を漏らした。
ジュニパーが少し不安そうにペルラを見る。
「どう? 気に入った?」
「わ、私に……?」
「そう」
ジュニパーは微笑んだ。
「昔、母上の靴で、きれいだと思ったデザインなんだ。ペルラを見ているうちに思い出したんだよ。きっと似合うと思う」
ジュニパーは、靴を手に乗せた。
「耳飾りに合わせて、色を選んだんだ」
ペルラはもう一度、輝く靴を見た。
「でも……耳飾りだけでもすごいのに、こんな宝石の靴までいただけませんわ……」
ジュニパーの表情が曇った。
「ペルラ……」
ペルラは慌てて手を振った。
「いえ、あの、とっても気に入ったんです! ただ、いただいてばかりで申し訳なくて……」
「そんなことなら、気にしないで」
ジュニパーはすぐに笑った。
「あっ、もし気になるなら、この靴を履いたところを見せて。それが僕へのプレゼントになるから」
「それでよろしいのでしょうか?」
ジュニパーは椅子から立つと、そのままペルラの前に跪いた。
「あっ、ジュニパー様が床になんて、いけませんわ」
ペルラが慌てて身を起こしかける。
ジュニパーは下からペルラを見上げた。
「大丈夫、大丈夫。座ってて」
「でも、私の靴は土だらけで……ジュニパー様の手が……」
「大丈夫。わかってる」
ジュニパーは気にする様子もなく、ペルラの靴を脱がせた。
そして、新しい靴をそっと履かせる。
銀色の靴が、ペルラの足元できらきらと輝いた。
「わあ、きれい……!」
「痛くない?」
「はい。大丈夫です」
ジュニパーは少し下がり、ペルラを眺めた。
「きれいだね。靴も似合うよ。思った通りだ」
「ありがとうございます」
ペルラは嬉しそうに足元を見た。
「靴、履いてくれる?」
「もちろんです」
「毎日履いてくれる?」
ペルラは思わず笑った。
「ふふっ。わかりました。履きますわ」
ジュニパーも満足そうに笑った。
ペルラは椅子から立ち上がった。
「きゃっ」
体がぐらりと傾いた。
ジュニパーがすぐに駆け寄り、ペルラを支える。
「おっと。大丈夫?」
「え、ええ……」
ペルラは足元を見た。
――ヒールが高い。
普段履いている靴とは、全然違う。
「ありがとうございます」
ペルラは顔を上げて、はっとした。
「あっ、お洋服に土が……すみません……」
ペルラはジュニパーの胸元の土を払った。
「いいから、いいから」
ジュニパーは笑って止めた。
「新しい靴だからね。ゆっくり慣らそう。転ばないように」
腕を差し出す。
「さあ、僕につかまって」
「すみません。ありがとうございます」
ペルラはジュニパーの腕につかまり、一歩踏み出した。
なんだか、靴が重い。おそらく宝石がついているせいだろう。
しかも上等な絨毯は毛足が深く、細いヒールが沈み込む。
足元がグラグラして、ますます安定しない。
「あの……ゆっくり……もう少しゆっくりお願いします……」
「あっ、ごめんね」
ジュニパーはすぐに歩調を緩めた。
「ゆっくり行こうね。そこの角まで歩いてみる?」
「はい」
前を向いて集中しているペルラを、ジュニパーは腕を貸しながら優しく見つめた。
二人は寄り添って、ゆっくり廊下を歩いた。




