7. ムーンストーン王都編③ 休日
※主な登場人物は、作品あらすじ欄にまとめています。
アルマンディン領、第三港湾。
休日の朝、ペルラが目を覚ました時には、いつもよりだいぶ遅い時間になっていた。
窓の外では、鮮やかなブーゲンビリアの花が風に揺れていた。
階下へ降りると、ミリスはすでに起きていた。
二人は朝食を食べてから、以前ミリスがフルーツタルトを買ってきた店へ行ってみることにした。
第三港湾の通りは、休日で人が多かった。
店の前まで行くと、入口には行列ができていた。
ペルラは立ち止まった。
「いっぱいですね」
「そうだね」
ミリスも少し残念そうに店内を覗いた。
空いている席は一つもなさそうだった。
「今度にしましょう」
二人はそのまま近くの公園へ向かった。
公園の中央には大きな噴水があった。
しばらく二人で噴水を眺めた後、また少し歩く。
ペルラはだんだん疲れてきたので座ろうとしたが、公園のベンチは埋まっていた。
ミリスは辺りを見回した。
「……今日はどこも混んでるな」
「休日ですものね」
少し先に、小さな飲み物の店が見えた。
「あそこに入ってみますか」
二人は店へ入った。
店のメニューは、店主のおすすめのミックススムージー一種類だけだという。
二人はそれを頼んだ。
しばらくして出てきたグラスを見て、ペルラは静かに言った。
「茶色い……」
ミリスもグラスをじっと見る。
「……何が入ってるんだろうね」
「果物……ですよね?」
「そのはずだけど」
少々泡だった茶色いドロドロの液体を、ミリスは勇気を出して一口飲んだ。
「あっ!」
ミリスが声を出すと、ペルラが心配そうにミリスを見た。
「ミリス様?」
「おいしい。おいしいよ!」
ミリスが笑った。
「本当ですか?」
ペルラも飲んだ。
「……おいしい」
二人は顔を見合わせ、笑った。
◇
夜は、ミリスが予約していたレストランへ行った。
窓の向こうには第三港湾の夜景が広がっていた。
港に並ぶ灯りが海面に映り、遠くには船の明かりも見える。
「すてきですね」
ペルラが窓の外を眺めていると、ミリスが小さな箱を取り出した。
「ペルラ」
「はい」
ペルラはミリスを見た。
「これ、よかったら」
ペルラは箱を受け取った。
中には、小さな銀の耳飾りが入っていた。
片耳用の飾りだ。
赤銅色の宝石が一粒ついている。ミリスの髪と瞳の色だ。
「わあ、きれい!」
ペルラは耳飾りをうれしそうに少し眺めると、耳につけた。
「ありがとうございます」
「気に入った?」
「はい。とっても」
ペルラが笑うと、ミリスもほっとしたように笑った。
「実は、僕のもあるんだ」
ミリスはもう一つ、小さな箱を取り出した。
こちらも同じ銀の意匠だったが、ついている宝石は濃い紫色だった。
ペルラの瞳の色である。
「色違いですか?」
「うん」
ミリスも耳飾りをつけると、ペルラを見た。
ペルラの顔元で耳飾りがきらきら光っていた。
婚約が決まってから、ムーンストーンを発つまでの短い間に、ミリスが急いで用意したものだった。
◇
その日の夜。
ペルラがいる二階から物音がしなくなってしばらくしてから、ミリスは静かにベッドから起き上がった。
クローゼットの奥には、まだ荷解きの終わっていない木箱が二つほど残っていた。
昼間、ナズナに言われたことを思い出す。
――あれ、どうしますか?
ミリスは月明かりの中で、木箱を開けた。
小さな箱が入っていた。
上等な布を解くと、中から一つの茶碗が出てきた。
側面には、金色のバサルク王家の紋章が入っている。
「あった。これか」
ナズナはバサルク王国に親戚がいるため、王家の紋章を知っていた。
ペルラがつい最近まで、バサルク王太子と婚約していたことも知っていた。
それでミリスに確認したのだ。
ミリスはしばらく黙って眺めた。
――なんのために、これをペルラに渡したんだろう。
バサルクを忘れないでほしい、という意味だろうか。
だが、王太子との婚約を解消したばかりなのだ。
忘れようとして、簡単に忘れられるような出来事でもないだろう。
これはペルラの物だ。
勝手に処分する気はなかった。
しかし、ペルラが見たい物なのか見たくない物なのかもわからない。
それに、正直なところ、今はあまり見せたくなかった。
かといって、自分の部屋にしまい込むのも違う。
ミリスは茶碗を丁寧に布で包み直し、箱へ戻した。さらに木箱に入れる。
台所へ向かうと、食器棚を開けた。
ミリスは脚立を持ってくると、食器棚の一番上の段の奥の方へ、木箱を押し込んだ。




