6. ムーンストーン王都編② 舞踏会
※主な登場人物は、作品あらすじ欄にまとめています。
その後、ネロリとリリーはソルト卿の紹介で、王家側の担当者とも面会した。
カダン家が、旧アルマンディン大陸王国が保有していた種について、情報を持っていることを伝えた。
ちょうどその頃、王宮で舞踏会が開かれ、ネロリとリリーもソルト卿とともに出席することになった。
夜のムーンストーン王宮は、白い石とガラスを基調とした建物を、柔らかな白い光の中に浮かび上がらせていた。
柱や窓枠には、細い銀線が植物の蔓のように幾重にも走り、左右非対称の曲線を描いている。
アルマンディン旧王都のアルマ宮とは雰囲気がずいぶん違った。
「ムーンストーンの王宮は明るくて華やかな感じね」
リリーが呟いた。
大広間には、すでに大勢の貴族が集まっていた。
ネロリは辺りを見回した。
――ムーンストーン人ばっかりだな……って、当たり前か。
ここはムーンストーン王国の王宮である。
その時、少し離れたところに、黒髪の青年が立っているのが見えた。
アルマンディン人に多い容姿である。
ある貴族のそばに控えている。どうやら護衛らしい。
ネロリは少し目を輝かせた。
近くに行き、自己紹介して質問する。
「突然伺って失礼ですが、あなたはアルマンディンの方ですか?」
横の主人らしき貴族が、青年を見た。
青年はまっすぐネロリを見て、少し微笑んだ。
「……私はセルド男爵アーバス、ムーンストーン人でございます。アルマンディンの血は入っておりますが」
確かに、髪はムーンストーンの男性らしく長く伸ばしていた。
「そうでしたか。教えてくださって、ありがとうございます」
ネロリは少し残念に思いつつ、頭を下げた。
青年も軽く会釈をすると、護衛らしい真剣な表情に戻った。
ネロリは歩きながら考えた。
――アルマンディン人はさすがに見ないか。しかし、今の男爵は、アルマンディンの血が入っていると言っていた。つまり、親はアルマンディン人とムーンストーン人で結婚したのではないか? 貴族で全く前例がないわけではないのだな。
アーバスことディアバスの正体を知る由もないネロリは、一人で納得して頷いた。
しばらくして、大広間の一角がざわついた。
「……あれ、どなた?」
「ジュニパー殿下?」
「久しぶりに拝見したわ」
「そういえば、アルマンディンへ行かれるのよね?」
「え? そんな遠い所に? おかわいそうに」
そんな小声が、あちこちから聞こえてくる。
ソルト卿がネロリとリリーに耳打ちした。
「あの方がジュニパー殿下だ」
リリーがそちらを見る。
白と銀の大広間の向こうに、ジュニパー第二王子が立っていた。
淡いミルクティー色の髪が、王宮の白い光を受けて柔らかく輝いている。
彫刻のように端正な顔立ちは、遠目にもはっきり分かった。
口元には礼儀正しい微笑を浮かべていたが、誰とも目を合わさず、誰とも言葉を交わさず、広間を突っ切り、王族席に歩いて行った。
リリーはジュニパーをうっとり見た。
「すてき……」
「姉上?」
ネロリが横を見る。
「……」
リリーはまだジュニパーを見ている。
「……お姉ちゃん?」
ネロリがリリーの顔を覗き込む。
「お姉ちゃん、頑張るわ!」
リリーは上を向くと拳を握った。
「え? 何を?」
「何をって、決まってるじゃない!
頑張って、領地のためにムーンストーン王家との縁を作るわ!」
「さっき、『すてき』って……」
「そうよ! あんなカッコいい方、見たことないわ!」
リリーは胸の前で手を合わせて、宙を見つめた。
「お姉ちゃん、声小さく……」
「ネロリ! 領地のために頑張るわよっ! ご挨拶しないと!」
「ねえねえ、なんか、目的変わってない?」
ネロリはリリーに王族席の方へ引き摺られていった。




