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5. ムーンストーン王都編① ネロリとリリー

ムーンストーン王都にあるソルト伯爵邸に、二人の客が滞在していた。


ネロリ・カダンと、その姉リリーである。


二人はアルマンディン貴族、カダン家の姉弟だった。

弟のネロリが現当主で、姉のリリーもまだ若い。


カダン家は、アルマンディンの穀倉地帯に領地を持つ、比較的裕福な貴族家である。

ただし、アルマンディンの名門というわけではない。


アルマンディン領には、旧アルマンディン大陸王国時代の貴族制度が今も残っている。

しかし、ムーンストーン王国のような中央貴族と地方貴族という区分はなかった。


一方、ムーンストーン王国では、貴族は大きく中央貴族と地方貴族に分かれている。

王都を本拠地とする家門が中央貴族で、その結束は固かった。


ソルト伯爵家は、その中央貴族の一つであった。


当主のソルト伯爵は、アルマンディン駐留軍の東部方面司令官を兼ねる東部統監である。

今日は仕事のため、ムーンストーン王都に戻ってきていた。


少し前、アルマンディン駐留軍の総司令官を務めていた高齢の王族が亡くなった。

次の総司令官には、ムーンストーン王国第二王子ジュニパー殿下が就くことが決まっている。

そのため、駐留軍上層部では、王都との調整が続いていた。


そんな時期に、ネロリとリリーはアルマンディンから王都までやってきたのである。


応接室で、ソルト卿は二人の話を聞いていた。


「やはり、かなり難しい話だと思うがね」


ソルト卿が言った。


「リリー様を、ジュニパー殿下のお妃にしたいという話だろう?」


「はい」


ネロリが答えた。


カダン家は、旧アルマンディン大陸王国が保有していた、ある種についての情報を持っていた。

その種については、アルマンディン駐留軍も行方を探していた。


ネロリたちは、その情報をムーンストーン側へ提供する代わりに、リリーとジュニパー第二王子との縁談につなげられないかと考えていた。


ソルト卿は腕を組んだ。


「情報そのものには価値があるだろう。だが、それと王族の婚姻は別の話だ」


ネロリは黙って聞いていた。


「カダン家が裕福なのは承知している。だが、王家との婚姻となれば話は別だ。アルマンディンでも、王族と釣り合うのは統監を出すような家だろう」


「承知しています」


ネロリは答えた。


「無理のある話だということは、私たちも分かっています」


「それでも、か」


「はい」


ネロリの隣で、リリーが大きく頷いた。


「ここまで来たのですもの。何もしないで帰るつもりはありません」


ソルト卿はリリーを見た。


「お会いすることすら難しいかもしれないぞ」


「それでも構いません。領地のために、できるところまで、やってみたいのです」


どうやら、姉弟の決意は固いらしい。


ソルト卿はしばらく考えた後、使用人に息子を呼ぶように言った。


しばらくして、応接室のドアが開いた。


「父上、お呼びですか?」


ソルト卿の息子、カシューが入ってきた。


「カシュー。こちらはアルマンディンのカダン家のネロリ様と、姉君のリリー様だ」


カシューは二人に挨拶した。


「お二人は王宮へ行くことになるかもしれない。ムーンストーン宮廷のマナーを、少し説明して差し上げてくれ。カシューはそういうことに詳しいだろう?」


「分かりました」


カシューは、アルマンディンとの違いを交えながら、一通り説明した。


ネロリとリリーは熱心に聞いていた。


「とても分かりやすかったです」


「それはよかったです」


カシューは微笑んだ。


「カシュー様は、アルマンディンの作法にもお詳しいんですね」


「あ、ああ……父と一緒にアルマンディンに長くいたもので……」


「どうもありがとうございました。

少し自信がつきました」


ネロリとリリーは笑って、顔を見合わせた。

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