4. 第三港湾編④ 事務室
ミリスは、ムーンストーン王立軍アルマンディン駐留軍の第三港湾副司令官として着任した。
第三港湾は、旧アルマンディン大陸王国の頃ほどの繁栄はないが、それでもこの北部地域内で一、二を争う大きな港である。
そこの軍政を統括する第三港湾司令部は、なかなか忙しかった。
朝、ミリスが早めに出勤して、司令部の事務室に入ると、グレンもちょうど入ってきた。
グレンは第三港湾司令官で、ミリスの直属上司である。
「グレン様、おはようございます」
「おはよう、ミリス」
「昨日教えていただいたケーキ屋さん、とてもおいしかったです」
「そうだろう?」
グレンは少し笑った。
「ペルラも喜んでいました」
「それはよかった」
その時、事務室のドアが開いた。
「おはようございま〜す。
あ、何の話してるんですか?」
リナールが事務室に勢いよく入ってきた。
リナールはミリスの副官である。
「おいしいケーキ屋の話だよ」
グレンが答えた。
「リナールは甘い物を食べるのか?」
「ケーキですかぁ。あれば食べますけど、俺は肉がいいっす」
「どんな肉が好きなんだ?」
ミリスが聞いた。
「何でも食べますけど、トナカイの肉が好きです」
「トナカイ?」
ミリスは目を丸くした。
「食べるどころか、見たこともないけど……。リナールは寒い所の出身なの?」
「ムーンストーンの北の方の生まれです」
「なるほど」
リナールは今度はグレンを見た。
「グレン様は、何の肉が一番好きですか?」
「うーん、スッポンかな」
ミリスは思わず二人を見比べた。
――なんて多様性があるんだ、この職場は。
「亀ですか〜?」
リナールは興味がなさそうに言った。
「ミリス様は?」
「ぎゅ、牛肉……」
――なぜ牛肉と答えるだけで緊張しなければならないのだろう。
「牛肉? 俺も好きっす」
「そ、そうか」
ミリスはややホッとしながら頷いた。
グレンが手で机をポンと叩いた。
「よし! では、今度、三人で牛のステーキでも食べに行くか」
ミリスは「いいですね」と言いかけたが、たちまちリナールの拍手と大声の「賛成〜!」にかき消された。




