69. アルマ宮編(15)塔
※主な登場人物は、作品あらすじ欄にまとめています。
アルマ宮の中央には、高い尖塔がそびえていた。
その最上部にある小さな部屋へ、ペルラはジュニパーと一緒にやってきた。
螺旋階段を休み休み上りながら、ペルラが口を開いた。
「疲れますけど……御伽話みたいでワクワクしますね」
「ゆっくりでいいよ。御伽話だって?」
「御伽話だと、こういう高い塔の部屋に糸車があったりするんですよね」
ペルラは少し息を切らせながら続けた。
「糸車? 指を刺しちゃうの?」
ジュニパーは笑った。
「怖いなあ。ここにはそんな怖い物ないよ。大丈夫」
ジュニパーの護衛が扉を開けた。
四方に窓がある石造りの小部屋だった。
ただでさえ狭いところへ、ジュニパーとペルラが入ってきたため、中にいた兵士の一人は壁際へ寄り、もう一人は階段の方へ下がった。
「わあ……」
ペルラは楽しそうに辺りを見回した。
ピンクと緑の塗料をばら撒いたような、まだら模様の壁だった。
年月を経てやや褪せ、落ち着いた風合いになっていたが、そこに点々と混じる色とりどりの小さな宝石は変わらずキラリと光っていた。
「なんてかわいいお部屋!」
「かわいいよね。ここだけなんだよ」
ジュニパーはペルラを見て目を細めた。
◇
「この部屋にあるのは、糸車じゃなくて――」
ジュニパーは窓辺を指差した。
「双眼鏡!」
窓のそばには、大きな双眼鏡が置かれていた。
ペルラはさっそく覗き込んだ。
「わあ、よく見えます!」
遠くの建物も、宮殿の庭に生える木々も、驚くほど近くに見えた。
「でしょう?」
ジュニパーが嬉しそうに笑った。
「鳥も見れるよ」
ペルラは夢中になって双眼鏡を覗いた。
鳥は枝の上を何度か跳ねたあと、ぱっと羽ばたいた。
「あっ、飛んでいっちゃいました」
ペルラは双眼鏡から顔を離した。
「残念」
ジュニパーが小さく笑った。
ペルラは、そのまま窓へ目を向けた。
アルマ宮のほかの場所より新しい窓枠。
この部屋だけ、ムーンストーン王宮にありそうな意匠の窓だった。
そして、窓の上の方には、ムーンストーン王家の紋章があった。
「あら?」
ペルラは少し首を傾げた。
「この紋章、真ん中じゃないんですね」
ジュニパーも紋章を見上げた。
「ああ。ムーンストーン王都の方角に合わせてあるんだって」
「そうなんですね」
ペルラは紋章を見たあと、その先に広がる空へ視線を移した。
王都は、はるかに遠く、ここからは見えない。
青い空の下には灰褐色のアルマの街並みが広がり、乾いた風に巻き上げられた砂埃が、遠くの景色をうっすら霞ませていた。




