67. アルマ宮編(13) 中庭
※主な登場人物は、作品あらすじ欄にまとめています。
アルマ宮に滞在するようになって、数日が経った。
アルマ宮は広く、いくつもの建物に分かれていた。
そのうち何棟かは今も閉鎖されたままで、図書館のある建物もその一つだった。
今使われている駐留軍本部にも図書室はあったが、ペルラが好んで読むような本はほとんどなかった。
そのため、ジュニパーが私物の本を何冊か貸してくれた。
ペルラは、ジュニパーが仕事でいない間、それを読んで過ごしていた。
◇
ある日の午後。
「ペルラ、ちょっと来て」
ジュニパーに連れられて廊下を進むと、普段は閉じられている扉の前に着いた。
「ここは?」
「中庭らしいよ。僕も入ったことないんだ」
「中庭ですか」
「うん」
扉を開けると、風が吹き込んできた。
ペルラの髪がふわりと揺れる。
四方を建物に囲まれた、小さな中庭だった。
アルマ宮の規模からすれば驚くほど狭い。
見上げれば、青い空が四角く切り取られていた。
上から回り込んでくる風は思ったより強かった。
そして――何もなかった。
庭の中央に、太い木が一本立っている。
葉はほとんどなく、乾いた枝が空へ伸びていた。
地面には、枯れているのか生きているのかわからないような草が、ところどころ弱々しく生えているだけだった。
「……何だか、ずいぶん寂しいお庭ですね」
「そうだね」
ジュニパーは辺りを見回した。
ペルラは中央の木へ近づいた。
幹に手を触れ、樹皮を確かめる。
少し上を見上げて、枝先にも目を向けた。
「これは、もう枯れていますね」
「そうなの?」
「はい。残念ですけど……」
ペルラはもう一度、太い幹を見上げた。
「倒れると危ないので、切った方がいいと思います」
「そうだったんだね。切るように手配しよう」
ジュニパーも木を見上げた。
「この木も頑張ったんだね」
「そうですね」
ペルラは微笑んだ。
庭の端には、古い石のベンチがあった。
ジュニパーはその前まで行くと、座面を手で何度か払った。
一度自分で腰を下ろして、確かめる。
「うん、大丈夫そう」
それから立ち上がり、ハンカチを広げた。
「どうぞ」
「すみません、ありがとうございます」
ペルラが腰を下ろした。
耳元で、青いオパールの耳飾りが揺れ、煌めいた。
ジュニパーも座った。
「中庭、ペルラの好きにしていいよ」
「えっ?」
「ペルラは植物を育てるの、好きでしょう?」
「はい、好きです」
ペルラは荒れた庭をウキウキと見回した。
――何を植えよう。
その時、あることに気づいた。
「でも、どうしようかしら……」
「何か問題があるの?」
「お世話が……」
「植えた後の心配をしてるの?」
「はい」
ジュニパーは笑った。
「ペルラは優しいなあ。僕が世話するから、心配しないで」
ペルラは目を丸くした。
「ジュニパー様が?」
「そんなに驚かなくても」
ジュニパーは笑った。
「すみません」
ペルラは口を押さえた。
「謝らなくていいよ。僕もペルラに教えてもらえば、水やりくらいできると思うよ。僕ができない日は庭師に任せるけど」
「そうですよね」
ペルラは、ふふっと笑った。
「どうして笑ってるの?」
ジュニパーが楽しそうに訊いた。
「王子様が水やりをするのが、なんだか不思議で」
「僕もペルラと同じだよ」
「そうですよね」
ペルラは笑った。
「一緒に水やりしましょうね」
「そうしよう」
ジュニパーは嬉しそうに頷いた。
「ペルラが時々見に来てくれたらいいじゃない」
「私が?」
「これからも」
「これからも……?」
「そう。これからも時々」
ジュニパーは続けた。
「ミリスも時々アルマ宮に来る用事があるんじゃないかな? 一緒に来ればいいよ」
「ああ、なるほど」
「その時には大きな馬車を出すから。ペルラの体がつらくないように」
「そんな、大袈裟ですよ。大丈夫ですよ」
ペルラは手を振った。
「そうかなあ?」
「普通の馬車で来ますよ」
ペルラはジュニパーを見た。
「そう?」
ジュニパーは微笑んだ。
「じゃあ、約束ね」
小指を差し出す。
ペルラは思わず笑った。
「指切りですか?」
ペルラは小指を、ジュニパーの指に絡めた。




