65. アルマ宮編⑪ 耳飾り
※主な登場人物は、作品あらすじ欄にまとめています。
昼食を終えたあと、ペルラはアルマ宮の上層階へ案内された。
この階には、昼間でもシャンデリアの明かりが灯っていた。廊下や部屋には花が飾られ、先ほどまでいたアルマ宮のほかの場所とは、少し雰囲気が違っている。
――王族のお客様が泊まるための場所なのかしら。
案内された部屋でしばらく待っていると、扉が開いた。
「待たせたね、ペルラ」
ジュニパーが入ってきた。
後ろにはヴィレンスと、もう一人護衛がついている。
「ジュニパー様」
ペルラが立ち上がると、ジュニパーは笑った。
「いいよ、座って」
ジュニパーがペルラの隣に座ると、侍女がお茶を運んできた。
出されたティーカップには、見慣れたムーンストーン王家の紋章が入っていた。
ジュニパーはカップを手に取った。
「外は危ないけど、今アルマには戒厳令が出てるから、安全だよ」
「そうなんですね。良かったです」
ペルラもお茶に口をつけた。
「ミリスは仕事があるから、先に帰ってもらったよ」
「えっ」
ペルラは顔を上げた。
「ミリス様は、もういないんですか?」
「うん」
ジュニパーはペルラの顔を見た。
「ペルラ……寂しい?」
「……はい。少し……」
ペルラはうつむいた。
自分ひとり残されるとは思っていなかった。
ミリス様はそんなことを一言も言っていなかった。
それに、アルマでどうしたらいいのか、わからない。
「大丈夫だよ。僕がいるからね。寂しくないよ」
ジュニパーは優しく微笑んだ。
「そうですね。ふふっ」
ペルラも小さく笑った。
――ジュニパー様、優しいな。
「ミリスは第三港湾の副司令官だから忙しいんだよ。バサルクに行っていて、だいぶ留守にしてしまったし、仕事が溜まっているだろう」
「ミリス様は、お仕事が忙しいのですね」
ペルラは小さくため息をついた。
――私、わかってなかった。自分のことばかり考えてはダメだわ。ミリス様のお仕事の邪魔にならないようにしなきゃ。
「そうそう」
ジュニパーは頷いた。
「戒厳令が出ている間は、民間人はアルマを出入りできないんだ。あやしい人と区別がつかないからね」
「そういうものなのですね」
「だから、しばらくアルマ宮で過ごしたら?」
ペルラは驚いた。
「ここにいていいんですか?」
――なんとありがたい話でしょう。
ジュニパー様は本当に心が広い。
「もちろん。ずっといてもいいよ」
「ずっとは申し訳ないですけど……」
ペルラは笑った。
「でも、行く当てもないですし、お言葉に甘えてお世話になってもよろしいでしょうか?」
「どうぞ、どうぞ。大歓迎だよ」
ジュニパーは嬉しそうに笑った。
「アルマはいい所だよ」
「昔のアルマンディン王国の歴史を感じますね」
「そう、そうなんだよ。さすが、ペルラはわかってるね」
「えへへ……そうですか?」
「みんなアルマのことを色々言うけど」
「色々ですか?」
ペルラは首を傾げた。
「いや、聞いていないならいいんだ……」
ジュニパーはカップを机に置いた。
「アルマ宮もいい所だよ。一緒にいっぱい見て回ろうね」
「はい」
ペルラは頷いた。
――ジュニパー様、楽しそう。
ジュニパーは侍女から小さな箱を受け取った。
「そうだ。ペルラに渡したいものがあるんだ」
箱を開く。
中には、宝石のついた豪華な耳飾りが一つ収められていた。
「これ、受け取ってくれる?」
青いオパールが編み込んだ銀線に包まれていた。
そこから青と無色透明の小さな宝石が房のように連なって垂れ下がり、ジュニパーが持ち上げると、揺れて涼しげなきらめきをこぼした。
「えっ、こんなにすごい物……」
「ペルラに会えるのを楽しみにしていた。ペルラを思って作らせたんだ」
ジュニパーはペルラの長い髪にそっと手を触れた。
指先で髪を寄せ、軽くキスをした。
「そうでしたの……」
ジュニパーはペルラの耳を見た。
片方の耳には、小さな赤銅色の宝石の耳飾りがつけてあった。
「ちょうど片方空いてるね。こっちにつけてもいい?」
「え、ええ……」
ジュニパーはペルラの髪をそっとよけ、耳飾りをつけた。
「この耳飾りがあれば、その来賓用の指輪はいらないよ。ペルラに色を合わせてあるし、つけててもいいけど」
ジュニパーはペルラの手元を見た。
「それに、この耳飾りには銀線が使われてるんだ。だから、ペルラがアルマのどこにいるかわかる。迷子になっても、すぐ迎えに行けるよ」
「そうなんですか? 便利ですね!」
ペルラは笑った。
「そうでしょう?」
ジュニパーは笑った。
「だから、耳飾りはずっと外さないでね。寝る時もだよ」
「寝る時も?」
「ペルラが誰かにさらわれたら困るから」
「さらわれたら……」
ペルラの顔が強張った。
「あ、怖くなっちゃった? ごめん、ごめん」
ジュニパーは笑った。
「そんなことは起きないよ。アルマ宮は安全だから心配しないで。でも、備えはあった方がいいでしょう?」
「そうですね。わかりました」
「この階が一番安全だから、ここにいてくれる?」
「はい」
ペルラは頷いた。
「外に行きたい時は、僕に言ってね。一緒に行こう。護衛隊もいるから怖くないよ」
「はい」
ペルラの表情に笑顔が戻った。
ジュニパーは、耳飾りをつけたペルラを改めて眺めた。
「うん、似合うよ」
満足そうに微笑む。
「ペルラはきれいだね」
「そんな……」
ペルラは恥ずかしそうにうつむいた。
そして、耳飾りにそっと触れると、ジュニパーに微笑んだ。
「すてきな耳飾り、ありがとうございます」
ジュニパーは、嬉しそうに笑った。




