64. アルマ宮編⑩ 特別研修
※主な登場人物は、作品あらすじ欄にまとめています。
朝のアルマ宮は、まだ空気がひんやりとしていた。
総司令官護衛隊の詰所へ向かう廊下を、タロウとジロウが並んで歩いていた。
「聞いたか? フェンネル、何か事情があって帰国したらしいぞ」
タロウが言った。
フェンネルは突然、総司令官護衛隊を離れ、ムーンストーン本国へ帰ることになったらしい。
「ああ、急だったな」
「バサルク王国から帰ってきた日、ヴィレンス様の部屋に入っていく時は、あの時はいつもと同じ感じだったけど」
ジロウは首を傾げた。
「詳しいことはわからないけど、本人じゃなくて家族の事情ってこともあるからな」
「そうだな。まあ、また会えるだろ」
「バサルク土産もまだもらってないしな」
二人は笑いながら、詰所へ入った。
◇
定刻になり、総司令官護衛隊の朝の申し送りが始まった。
隊員たちが列に並び、姿勢を正す。
前に立ったヴィレンスが、連絡事項をいくつか告げた。
それから、タロウを見た。
「タロウ」
「はっ」
「明日より三日間、通常業務から外す」
タロウはわずかに目を見開いた。
「私が特別研修を行う」
胸が高鳴った。
「はっ!」
タロウは力強く敬礼した。
フェンネルが受けていた研修だ。
総司令官護衛隊に配属されてから、いつか自分ももっと重要な任務を任されたいと思っていた。
その機会が来たのかもしれない。
◇
申し送りが終わると、ジロウがすぐにタロウのところへやってきた。
「お前、すごいな! ヴィレンス様の特別研修だぞ!」
ジロウは自分のことのように嬉しそうだった。
「それほどでもないよ」
タロウは照れながら答えた。
「うらやましい奴だな、おい!」
「お前もきっとすぐだよ」
「そうかな?」
「ああ」
「よし。俺も頑張るぜ!」
ジロウは明るい声で言うと、拳を握った。
「おう、その調子だ。
俺も研修頑張るぞ!」
タロウはジロウの肩を抱いて、拳を突き上げた。
朝の光が、笑う二人を照らしていた。




