60. アルマ宮編⑥ 昼食
※主な登場人物は、作品あらすじ欄にまとめています。
ミリスが報告に行っている間、ペルラたちはアルマ宮の一室で待っていた。
フェンネルは椅子に座っていたが、ほかの者たちは手持ち無沙汰に室内を眺めていた。
「これは立派ですねえ」
農務技官が言った。
壁には、大きな地図のタペストリーが掛けられていた。
「うわ〜」
リナールも感嘆の声をあげた。
山や川、街や港が多くの色糸で描かれ、金糸や銀糸もふんだんに使われている。各地の動植物や人々の風俗まで、細やかな織り模様で表現されていた。
「すごいですね」
ペルラも相槌を打った。
「アルマンディン大陸でしょうか?」
会計官がタペストリーの横にある小さな金属札を指差した。
『アルマ宮 管理番号二一七号
旧アルマンディン大陸王国最大版図図』
「札を見ると、旧アルマンディンの地図みたいですね」
「ああ、そうだったんですね……」
ペルラはもう一度タペストリーを見上げた。
かつての王国の栄華も、今ではアルマ宮の壁に掛けられた備品の一つだった。
◇
しばらくすると、料理が運ばれてきた。
「昼食まで出るんですねえ」
農務技官が嬉しそうに席についた。
「ちょうど腹減ってたんですよ」
リナールも席についた。
他の者も座った。
フェンネルは、並べられていく料理をぼんやり見ていた。
――報告に来ただけの人間に、アルマ宮では普通は昼食を出さないが……。
「いただきます!――ん〜、うまい!」
さっそく料理を口にしたリナールが声を上げた。
「上等な味がしますねえ。さすがアルマ宮」
農務技官も満足そうに頷いた。
フェンネルは黙ってパンをちぎった。
アルマ宮の料理は、新人訓練中の隊員が交代で作っていることを、フェンネルは知っていた。
ペルラも食べようとして、ふと皿に描かれた紋章に気づいた。
思わず黙って見つめていると、扉が開き、報告を終えたミリスが入ってきた。
「お疲れさまです。あれ、みんな昼食?」
ミリスも空いていた席についた。
「そうなんすよ。昼食が出てきたので、お先にいただいてま〜す」
リナールが言った。
「そうなんだ。食事まで出してくれるのか」
ミリスの前にもすぐに昼食が運ばれてきた。
その時、隣のペルラが戸惑っている様子に気づき、ミリスが尋ねた。
「どうしたの?」
「これ、アルマンディン王家の紋章ですよね?」
ミリスも皿を見た。
「……本当だね」
ムーンストーン王の軍の施設で、アルマンディン王家の紋章入りの品を使っている。
王都の中央貴族が知ったらひっくり返りそうな話である。
リナールが自分の皿を見下ろした。
「あ、確かに! なんか駐留軍本部の紋章みたいに思ってましたけど、アルマンディン王家の紋章でしたね。ははは」
農務技官と会計官も笑った。
「ははは」
会計官が上機嫌で辺りを見回した。
「お酒は出てこないのかな?」
「使節団任務が無事に終わった記念ですね!」
農務技官が楽しそうに言った。
ミリスは一瞬、手を止めた。
――無事……?
「それはさすがに職場っすから!」
リナールが笑った。
「ははは、そうですよね!」
「残念ですねえ」
「わははは!」
その時、扉がノックされた。
笑い声が止まった。
「失礼します」
扉が開き、ヴィレンスが入ってきた。
ヴィレンスはペルラとミリスに軽く会釈すると、フェンネルに目を向けた。
「フェンネル」
「はっ」
フェンネルが姿勢を正した。
「食べ終わったら、どこにも寄らず、まず私の部屋へ来い」
「……はっ」
ヴィレンスはそれだけ告げると、部屋を出ていった。




