57. アルマ宮編③ 宿
※主な登場人物は、作品あらすじ欄にまとめています。
第三港湾からアルマに向かう途中の宿で、夜中、ペルラはミリスに肩を揺すられて目を覚ました。
「ペルラ、起きて」
「……どうしましたか?」
まだ眠気の残る目を開くと、ミリスは声を落として言った。
「賊かもしれない。クローゼットに隠れよう」
「えっ……」
廊下の向こうから、何かがぶつかるような音が聞こえた。
ペルラは一気に目が覚めた。
ミリスはクローゼットの扉を開けた。
「先に入って」
ペルラが中へ入ると、ミリスは机と椅子を動かし始めた。
その時、部屋の扉が叩かれた。
「ミリス様、ペルラ様、大丈夫ですか?」
フェンネルの声だった。
ミリスが少しだけ扉を開けると、フェンネルとリナールが立っていた。
「ああ。任せていいか? すまないけど、ペルラがいるし」
「わかりました」
フェンネルはすぐに頷いた。
「まあ、僕たちも人数が少ないから、深追いはしなくていい」
「はい」
フェンネルの後ろからリナールが顔をのぞかせた。
「あっ、ミリス様は行かないんですか? ずるいっす〜」
「行くぞ!」
フェンネルはリナールを引っ張って行った。
ミリスは扉を閉めると、机と椅子で簡単に塞いだ。
それからクローゼットに入る。
「ごめんね、狭いね」
ペルラは固い表情のまま黙っていた。
ミリスは、ペルラの冷たい手を優しく握った。
「大丈夫、大丈夫」
廊下では、フェンネルとリナールが物音のする方へ向かっていた。
一階に下りると、一室の扉が開いている。
フェンネルが中を覗いた。
「大丈夫か?」
部屋の中には、黒い服を着た男が三人いた。
三人の男が一斉に振り返った。
追いついたリナールが言った。
「ひえっ、三人もいる」
男たちの向こうで、農務技官と会計官が青ざめていた。
会計官は震える手で剣を握っていた。
農務技官はなぜかピンセットを手にしている。
フェンネルは一瞬室内を見渡すと、剣を抜かずに踏み込んだ。
部屋が狭い。
一人目の懐へ入り、拳を叩き込む。
男が倒れるより早く、二人目にも拳を入れた。
二人とも、その場に崩れ落ちた。
「すげー」
リナールが呟いた。
残った一人が剣を抜き、フェンネルへ振り下ろした。
フェンネルも剣を抜いた。
鋭い音が響く。
一度強く打ち合わせただけで、男の剣が横へ弾き飛ばされ、床を滑った。
フェンネルはそのまま踏み込み、男の腕を取って床へ倒した。
男が動かなくなったのを確認すると、剣を収める。
「……早っ。さすが護衛隊っすね」
リナールは舌を巻いた。
フェンネルは男を押さえ込みながら、服の中から紐を取り出した。
「縛るの、手伝ってくれ」
リナールはフェンネルから紐を受け取った。
「紐持って歩いてるんすか? キャンプ好き?」
「……そういうわけではないが」
フェンネルは少し困ったような顔をした。
男たちを縛りながら、リナールは気になっていたことを農務技官に質問した。
「ところで、なんでピンセット持ってたんすか?」
農務技官は手元を見た。
「剣はクローゼットにうっかりしまっていて……ピンセットなら手元のカバンに入っていたんです」
農務技官も駐留軍の軍人の一員なのに、油断し過ぎである。
「しっかりしてくださいよぉ」
リナールは呆れた。
四人は男たちを縛ると、宿の者に引き渡した。




