53. バサルク王国編(33) 雨上がり
※主な登場人物は、作品あらすじ欄にまとめています。
昼食の席には、明るい陽が差し込んでいた。
窓の向こうには、雨上がりの熱帯雨林が広がっていた。
昨日までの雨で水量を増した滝が、森の斜面をいつもより太く流れ落ちている。
森のあちこちを流れる細い水路や小さな川は、やがてひとつの大きな川へと集まっていく。
その川は深い緑の間を緩やかに蛇行しながら、遠くへ続いていた。
「今日はいいお天気ですね」
ペルラは目を細めた。
「ああ」
向かいに座るオーニチェも、窓の外を見た。
昨日の騒ぎが嘘のように、王宮は静かだった。
ペルラは食後の果物を一切れ口に運んだ。
オーニチェが口を開いた。
「フェンネルのことだが……もう捕まって、自分の部屋でおとなしくしている」
ペルラは顔を上げた。
「ほかに農薬を持っている者もいないそうだ。今頃ミリスとも話して、きっと反省しているだろう」
ペルラは頷いた。
オーニチェは手元の茶碗に視線を落とした。
「だから、もうミリスの隣の部屋へ戻っても構わない」
オーニチェは思い切って顔を上げて、微笑んだ。
「戻りたいか?」
「はい」
ペルラはにっこり笑った。
「そうか」
オーニチェは静かに頷いて、お茶を飲んだ。
「あの、こんなことになって……ミリス様のお仕事は大丈夫なんでしょうか?」
ペルラはうつむいた。
「大丈夫だ。使節団の仕事も終わりのはずだ」
「終わり?」
ペルラは少し驚いた。
「そうだ」
オーニチェは笑った。
「悪い意味ではないぞ」
「そんなこと疑ってません!」
ペルラは少し頬を膨らませた。
「オーニチェ様はそんな人じゃないもの」
オーニチェは短く息を吐くと、ペルラを見つめた。
「では……どんな人だ?」
ペルラは言葉を探すように、少し視線をさまよわせた。
「どんな人……? あ、あの……優しくて……」
オーニチェは小さく声を上げて笑った。
「すまない、困らせたな」
オーニチェは立ち上がると、歩いて行き、窓を開けた。
室内の温まり過ぎた空気の中を、穏やかな風が通り抜けた。
オーニチェは壁に寄りかかって、窓の外を見た。
「ディアバスは、あなたを妹のように思っていると言っていた」
「はい。私も、ディアバス様のことは兄のように思っています」
オーニチェはペルラを見た。
「家では、ディアバス様なんて呼んでいなかったのだろう?」
ペルラは笑った。
「ディアですね」
「ディアか……私より、よっぽど兄弟らしいじゃないか」
「呼び名だけですよ」
ペルラは果物を食べ終えると、立ち上がって、窓のところへ行った。
「いや、いいんだ……そういう兄弟もいいじゃないか。血のつながりだけじゃない」
「そうですね」
ペルラは微笑んだ。
オーニチェはペルラの顔を覗き込んだ。
「ディアバスは私の弟なのだから、あなたは私にとっても妹のようなものだな」
ペルラは一瞬きょとんとした後、嬉しそうに言った。
「では、オーニチェ様のことを、お兄様とお呼びしてもよろしいですか?」
「ああ、もちろん。
また……いつでもバサルクに来るがいい、我が妹よ」
「はい、ありがとうございます、お兄様」
二人は楽しそうに笑った。




