52. バサルク王国編(32) 目覚め
※主な登場人物は、作品あらすじ欄にまとめています。
昼頃、リナールはバサルクの守備兵に呼ばれた。
フェンネルの部屋の前には、守備兵が二人立っていた。
リナールが中へ入ると、窓は大きく開け放たれ、風が部屋を吹き抜けていた。
部屋の中にも、守備兵が二人いた。
「あと三十分ほどで目を覚ますと思います」
守備兵の一人が言った。
リナールは寝台へ近づいた。
フェンネルは仰向けに寝ていた。
顔色は悪くない。胸もゆっくり上下している。
生きている。
着ているのは、見慣れないバサルクの服だった。
――なるほど。これが厨房の服か。
リナールはフェンネルの左手を見た。
やはり、星の蔦はなかった。
昨夜ミリスと見た、あの鉢の中身を思い出す。
リナールは寝台の横に椅子を引き寄せて座った。
部屋の中には守備兵が二人立っていて、出ていく様子がない。
無言で三人でフェンネルを見た。
◇
しばらくして、フェンネルが目を開けた。
「ここは……? 痛っ」
かすれた声で言うなり、フェンネルは顔をしかめた。
「おはよう、フェンネル」
リナールは微笑んだ。
「リナール? 僕は……?」
フェンネルは目を丸くした。
「お前、生きてるぞ。運がいい奴だな」
フェンネルは体を起こそうとして、再び寝台に崩れ落ちた。
「痛い痛い。全身が痛い!」
リナールは声を上げて笑った。
「そりゃ、お前、当たり前だよ。ずいぶん高い所から落ちたらしいじゃん」
後ろで、守備兵が静かに部屋から出ていった。
「そう、落ちた……それで……」
寝台の上で、フェンネルは必死に身をよじり、座ろうとしていた。
リナールは立ち上がり、フェンネルの背中を支えてやった。
「ミリス様に感謝しろよ? 交渉、だいぶ苦労してたぞ」
フェンネルはうつむいて、頷いた。
頬を涙が伝った。
「フェンネル、泣いてるの? バカな奴だなあ」
リナールはフェンネルにハンカチを差し出した。
フェンネルは受け取る前に、涙声で聞いた。
「……このハンカチ、鼻かんでないヤツ?」
「今からかんでやろうか?」
リナールはフェンネルを寝台に押し倒した。
「痛ぇ、痛ぇよ!」
フェンネルは寝台の上で身悶えた。
「うるせー。俺はミリス様に報告してくる。おネンネしてるお前と違って、俺は仕事があるんだよ」
リナールはハンカチをフェンネルの胸元に放り、部屋から出ていった。




