48. バサルク王国編(28) 菓子皿
※主な登場人物は、作品あらすじ欄にまとめています。
ミリスはリナールの部屋を訪ねた。
手には籠を持っていた。
「もう寝るところか?」
「いや、全然。まだ起きてますよ」
「そうか。ペルラから皆にお菓子をもらったんだ。リナールも食べるか?」
「いいですね。いただきます」
籠の中には布がかけられ、その下にはきれいな皿に載せられた菓子がいくつか入っていた。
ミリスは皿を取り出して、机に置いた。
リナールは菓子を食べると、笑顔を見せた。
「うまい」
「そうか、よかった」
ミリスは昼間から引っかかっていたことを口にした。
「そういえば、救荒種の権利料らしい金の流れが見つかったのは、プリズマの交易記録だったんだよな」
「そうっす。でも、誰から誰に払われてるのかは、よくわからないんでしたよね」
使節団が出発する際に、駐留軍総司令官副官のアニス様が船に来て、そう説明していた。
リナールは菓子を食べながら、少し考えた。
「普通に考えると、バサルク王国に救荒種を渡した側に、バサルクがお金を払うはずだよな」
「本当に、誰宛てなんすかね?」
「来てから延々探してるのに、その記録が見つからないんだよなぁ」
ミリスは苦笑した。
リナールが二つ目の菓子に手を伸ばした。
焼き菓子を持ち上げると、その下から皿の模様が現れた。
――ん? 模様ではなく、紋章か?
ミリスは気になり、菓子を皿の縁に寄せた。
「これ、アルマンディン王家の紋章じゃないか?」
「本当だ! バサルク王家の紋章じゃなくて、アルマンディン王家っすね」
この菓子は、ペルラの希望により、侍女が部屋に備え付けの皿や籠で急遽準備してくれたものだ。
使節団へのメッセージとは考えにくい。
昔の贈答か何らかの交流の結果、この皿はバサルク王宮に来た。
そして、今ではきれいな皿として重宝され、バサルク王宮でごく普通に使われているのだろう。
「アルマンディン王家と、バサルク王家って何か関係があるんすか?」
「どうだろうね。でも、バサルク王太子オーニチェ様は、アルマンディン北部統監のカウプテ様の甥だ。カウプテ様のパセリ家というのは、旧アルマンディン大陸王国時代からの、名門貴族だ。そう考えると、バサルク王家は旧アルマンディン王国の人間とつながりがあってもおかしくない」
「もし、昔から何かつながりがあったとしたら、権利料の金も、旧アルマンディン側に流れてるかもしれないってことですか?」
「可能性はある。そもそも救荒種はアルマンディン王家が管理していたんだからな」
ミリスは頷いた。
リナールは少し首をかしげた。
「でも、その金の流れが見つかったのって、巡航都市プリズマの交易記録でしたよね」
「ああ」
「だったら、アルマンディンに流れてるわけじゃないんじゃないっすか?」
ミリスは少し考えた。
「……いや。プリズマを中継している可能性もある」
「中継?」
「アルマンディン大陸へそのまま金が流れていれば、ムーンストーンにすぐ見つかる。プリズマで一度取引を挟めば、その先までは交易記録だけではわからない」
「なるほど」
もちろん、想像にすぎない。
それでも、別々に見えていたものの間に、何か関係があるようにも思えてきた。
「今回の使節団って、ムーンストーン本国出身者だけなんですよね」
リナールが言った。
ミリスも、そこで改めて気づいた。
アルマンディン出身者が信用されていないわけではない。
北部統監のカウプテなど、王立軍から厚く信頼されている者もいる。
それでも、今回の使節団には一人も入っていなかった。
「旧アルマンディンの有力者や、その人脈を調べるなら、近すぎる人間は入れにくかったのかもしれないな」
ムーンストーン上層部は、自分たちに説明した以上のことを疑っていたのかもしれない。
ミリスは腕を組んだ。
「僕たちが来る前から、ムーンストーンはバサルクに救荒種について問い合わせていた。それなのに、僕たちが来てから、バサルク側が事前に調べた場所を一つでも教えてくれたか?」
リナールの手が止まった。
「……ないっすね」
「倉庫を見せてほしいと言えば見せてくれた。帳簿を見せてほしいと言えば見せてくれた。でも、『ここは調べました』『ここにはありませんでした』と向こうから教えてくれたことはない」
「協力はしてるけど、自分からは何も教えてくれない」
「ああ」
本当に救荒種や帳簿を持っていないのなら、バサルク側で調べて、ないと答えれば済む。
それをしない。
使節団に一から探させている。
「……本当はあるのに、時間稼ぎっすか」
「おそらくな。バサルク側は、途中で疲れて、あきらめて帰ってほしいと思っているんだろう」
ミリスは顎に手を当てた。
「上層部には、バサルク王家が、旧アルマンディンの勢力を支えているように見えていたのかもしれないな」
「そうっすね」
「王太子暗殺は見せしめ――リナールはそう言ってたよな?」
「はい。そう説明を受けました」
「これは単純に、救荒種と金の記録を出させるための見せしめじゃない」
それだけのために王太子を狙うのは、大事過ぎると感じていた。
「ですね」
「旧アルマンディン側とつながる者たち全体への警告だ」
そう考えれば、上層部がそこまで強い手段を選んだ理由もわかる。
ミリスはしばらく黙っていた。
「とは言え、王太子暗殺なんて大事件だ」
リナールは頷いた。
「僕には暗殺のことを知らせない。失敗したらリナールが報告する」
ミリスは考えながら続けた。
「上層部は、失敗した時に、フェンネル個人の暴走として処理する余地を残していたのかもしれない」
そうすれば、ムーンストーン王国は暗殺未遂から距離を取れる。
バサルクとの外交関係も、表向きは守れる。
「でも、そうしたら、フェンネルは……」
リナールはそう言うと、天井を見て、ため息をついた。
所属する国から切り離された王太子暗殺未遂犯。
答は考えるまでもなかった。




