↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
43/106

43. バサルク王国編(23) 使節団

※主な登場人物は、作品あらすじ欄にまとめています。

謁見の間を出たあと、ミリスは使節団の居住区へ戻り、リナールの部屋を訪ねた。


ミリスは、先ほど謁見の間で見聞きしたことをリナールに話した。


リナールは、使節団の居住区の封鎖から異常を察していたのか、大きな驚きは見せなかったが、徐々に顔色が悪くなるのがわかった。


「予想以上の事態っすね……」


リナールが少し苦しそうに呟いた。


ミリスが尋ねた。


「フェンネルは、リナールたちと一緒じゃなかったのか?」


「王宮の部屋を手分けして種を探してたんです。途中から一人ずつ別の部屋を見てました」


「そうか」


それなら、フェンネルが途中でいなくなっても気づかなかっただろう。


ミリスは少し考えてから、リナールを見た。


「フェンネルが王太子のオーニチェ様の食事に毒を入れようとしていたという話を、どう思う?」


「どうっていうのは……」


「本当だと思うか? ということと……」


ミリスは言葉を切った。


「……リナール、お前もか? ということだ」


リナールは壁にもたれかかると、体を折り曲げて、大笑いした。


「はははは!」


ミリスは黙ってリナールを見た。


なぜ笑うのか理解できなかった。


「俺も失敗だな」


リナールは壁にもたれたまま、目を伏せて、誰にともなく、呟いた。


「失敗……?」


ミリスは聞き返した。


しばらく間があった。


リナールがミリスを見た。


「俺には、今日、本当は何があったのかまではわからないです。でも、オーニチェ様がフェンネルを見せてきたなら、そうなんだろうなあと思いますよ」


「そう思うか?」


「だって、こんなことになって、バサルクも困ってると思いますよ。わざわざ嘘をでっちあげる意味がないんじゃないっすか」


「そうだな」


ミリスは小さく頷いた。


リナールは壁から身を離した。


「あと、何でしたっけ? 俺も農薬を持ってるかってことですか?」


「持っているというか……」


「……じゃなくて、王太子暗殺の命令を受けているか、ってことですか?」


「そうだ」


ミリスは頷いた。


「俺は、暗殺の命令は受けてないです」


「暗殺の命令は……?」


激しい雨が、蔓を編んだ壁にじわりと染み込んできていた。


「俺が受けた命令は、フェンネルが暗殺に失敗した時に報告しろ、です」


ミリスはしばらく黙った。


「それで……報告したのか?」


「してないっす」


リナールはあっさり言った。


「してない?」


自分はまだ救荒種を見つけられず、フェンネルは任務に失敗し、リナールは命令された報告をしていないというのか。


「だって、報告したら嫌なことになりそうじゃないですか?」


リナールはにっこり笑った。


「嫌なこと……」


ミリスはぼんやり繰り返した。


「ミリス様もわかるでしょ?」


リナールは少し声を落とした。


「失敗した奴がどうなるかなんて」


リナールの言いたいことは想像できた。


フェンネルがムーンストーンによって処分されるということだろう。


しかし、ミリスには実感が湧かなかった。


ミリスの父はムーンストーン本国の地方方面軍、妹のルビーは近衛におり、またヘーゼル侯爵家の親族にもムーンストーン王立軍に勤めている者が多かったが、そんな話は一度も聞いたことがなかった。


「そんなことが……? 見たことがあるのか?」


リナールはきっぱり言った。


「見たことはないです」


「そうか……」


リナールはミリスを見た。


「失敗の報告は、フェンネルをさらに支援するためだということですか?

俺は報告した方がいいんでしょうか?」


「いや、待て。わからない……」


リナールは頭を掻きむしった。


「ああ、わからない!

わからないっす!

でも駐留軍のことだから当然そうかな、って思ったんです。

俺がアルマンディンに長く居過ぎたんでしょうか?」


自分を除けば、ヘーゼル侯爵家の家門に、アルマンディン駐留軍の者がいないことを、その時ミリスは思い出した。


駐留軍は、王立軍の中で最も多い人員を抱える組織であるのに。


「王立軍の規則では、そんなことはありえないはずだが……」


ミリスは言葉を濁した。


任務に失敗する度に軍に処分されていたら、軍は成り立たないのではないか?


とは言え、リナールの方が駐留軍の現場にいた経験ははるかに長かった。


リナールの勘を完全に否定するのも難しい。


しばらくして、リナールが尋ねた。


「フェンネルは今、生きてるんすよね?」


「ああ。オーニチェ様はそう言っていた」


リナールは少し笑った。


「運がいい奴っすね」


そう言うと、目を閉じた。


「でも、あいつ、この先アルマンディンに帰って、生きていけるのかな?」


リナールは目を開けて、ミリスをじっと見た。


「ミリス様の言うように……生きていけるのかな?」


ミリスも確信は持てなかった。


自分の考えが正解か確かめるために、フェンネルの命を賭けられない。


ミリスが何も言えずにいると、リナールはうつむいた。


少しして、リナールは顔を上げた。


頭の後ろで手を組んで、天井を見上げた。


「全部なかったことにできれば、もしかしたら許してもらえるかもしれないっすね」


「全部、なかったことに……?」


ミリスは面食らった。


突拍子もない考えに思えた。


頭を抱えるミリスをよそに、リナールが言った。


「でも、これじゃあバサルクは全然こりてないでしょうねえ」


「こりる、というのは?」


「フェンネルの仕事は、救荒種と金の記録を出させるための見せしめだったんです」


ミリスはリナールを見た。


「そういうことなのか?」


「はい。バサルクだけじゃなくて、アルマンディン貴族への見せしめでもあります。救荒種とか、金の記録とか、まだ隠してる奴らに」


ミリスはうつむいた。


「そうか……僕は使節団長なのに、何もわかっていなかったのだな」


「気にすることないっす」


リナールはあっさり言った。


「フェンネルも俺も、ミリス様に言わなかったんです」


「それは、同じことだろう?」


「いや、違います」


リナールは首を横に振った。


「ミリス様には知られるなと命令されていたんです」


リナールは顔を上げて、優しく微笑んだ。


「ミリス様と……俺たちは違うんです」


「違う、とは?」


本当に答を求めているのか、自分でもわからなかった。


考えるより先に、乾いた口が動いていた。


「やる仕事が違うんす」


リナールは淡々と言った。


「もし、暗殺に成功していたら……」


ミリスはゆっくり尋ねた。


「その時も、私には秘密だったのか?」


リナールは肩をすくめた。


「さあ。それを決めるのは、俺とフェンネルじゃないっす」


外はどんどん暗くなってきており、リナールの表情はほとんど見えなくなっていた。


ミリスは窓辺に歩いて行った。


雨は相変わらず強く降っていた。


やがて、小さく呟いた。


「……私たちは、ここに何をしに来たのか?」


リナールが部屋の灯火をつけた。


「うーん、何でしょねえ」


リナールも窓辺に来ると、ミリスの隣に立って、外を見た。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。