39. バサルク王国編(19) 扉
※主な登場人物は、作品あらすじ欄にまとめています。
ミリスは王宮の一室で、会計官と帳簿を広げていた。
「これも違いますね」
会計官が帳簿を閉じた。
「そうですね。次を見ましょうか」
ミリスは新しい帳簿を手に取った。
その時、会計官のお腹が小さく鳴った。
「あっ、すみません」
「いえいえ」
ミリスは微笑んだ。
「でも、今日は昼食が少し遅いですね」
いつもなら、そろそろ何かしら声がかかる時間だった。
少し前に、王宮中で鐘が激しく鳴っていた。
しばらく騒がしかったが、今は静かになっている。
もしかしたら、何かあったのかもしれない。
だが、使節団に関係することなら、誰かが知らせに来るだろう。
ミリスは再び帳簿へ目を落とした。
それからしばらくして、扉が叩かれた。
ミリスが開けると、王宮の侍従が立っていた。
「ミリス・ヘーゼル様」
「はい」
「オーニチェ殿下がお呼びです。謁見の間へお越しください」
ミリスは顔を上げた。
ずいぶん突然だ。
「今からですか?」
「はい」
ミリスは帳簿を閉じた。
会計官に軽く頭を下げ、侍従について部屋を出る。
回廊へ出たところで、足が止まった。
「……え?」
景色が違う。
いつもなら、巨木の間をつなぐ何本もの回廊や吊り橋が重なって見えていた。
そのうちの数本が、なくなっている。
正確には、なくなったわけではない。
片側を外された吊り橋が、木々の間に長く垂れ下がっていた。
別の回廊も大きく傾き、下層へ向かってぶら下がっている。
普段は複雑に入り組んで見える王宮の中が、不自然なほど開けている。
「……何があったんですか?」
ミリスは前を歩く侍従に尋ねた。
侍従は足を止めずに答えた。
「不審者がおりましたので、回廊をいくつか落とす指示がございました」
ミリスはもう一度、周囲を見回した。
――不審者って、こんなことになるのか?
残された大回廊を歩く。
大回廊の周囲が妙にすっきりしていた。
「その不審者は、捕まったんですか?」
「詳しいことは、殿下からお聞きください」
ミリスは黙って歩いた。
大回廊を抜けると、謁見の間へ続く扉が見えてきた。
その前には、いつもより多くの守備兵が立っている。
ミリスは眉をひそめた。
――何があったんだ?
侍従が扉の前で足を止めた。
「ミリス・ヘーゼル様をお連れしました」
重い扉が、ゆっくりと開いた。




