38. バサルク王国編(18) 発見
※主な登場人物は、作品あらすじ欄にまとめています。
鐘の音が鳴り止んで、しばらく経った頃だった。
王宮の下層の回廊を歩いていた使用人たちが、足を止めた。
「あれ?」
少し先に、誰かが倒れている。
上から落とされた裏通路の一部が、近くの回廊に引っかかっていた。
「おい、人がいるぞ」
二人で近づく。
厨房で働く者の服を着た若い男だった。
うつ伏せに倒れたまま、動かない。
「生きてるか?」
一人がしゃがみ込んだ。
「息はしてる」
「鐘が鳴ったのに、通路から逃げなかったのか?」
「鈍臭い奴だなあ」
男を仰向けにして、起こそうとする。
その時、腕を持った使用人が首を傾げた。
「ん?」
左腕が妙にごつごつしている。
袖の奥で、何かが光った。
「何だ、これ」
少し布をずらす。
植物の蔓のような形の細い銀線が、左腕を覆っていた。
二人は息を呑んだ。
「星の蔦じゃないか!」
「ムーンストーンの軍人か?」
二人は顔を見合わせた。
「守備兵が、厨房の服を着た怪しい人間を探してるって言ってなかったか?」
一人が立ち上がった。
「守備兵を呼んでくる!」
◇
守備兵たちはフェンネルを王宮の一室へ運び、寝台に寝かせた。
部屋に入ってきたピレイは、気を失ったままのフェンネルを見下ろした。
顔に見覚えがあった。
「使節団の人間だな」
厨房の服の端から、不釣り合いにきらめく星の蔦がわずかにのぞいていた。
「所持品を確認しろ」
守備兵たちがフェンネルの持ち物を調べる。
やがて、一人が小さな袋を取り出した。
「ピレイ様。これは……」
袋を開けると、虹色の粉が入っていた。
「何の粉かわからない。中身に触るな。
報告では、植物に使う物の可能性もある。庭師を呼べ」
すぐに王宮の庭師が呼ばれ、隣の部屋に通された。
庭師は袋の中を見た。
「この珍しい虹色の粉……コンミフォラ家製の特級の農薬ですね。滅多にお目にかかれませんよ。この貴重な品を私に?」
庭師はニコニコ顔でピレイを見た。
「違う。ちょっと確認してほしかったのだ。
これをあげることはできない」
ピレイは慌てて袋を庭師から取り返した。
「仮定の質問だが、もし、これを人が飲んだらどうなる?」
庭師の顔色が変わった。
「人が? 人が飲んではダメなものです。命に関わることもあります」
ピレイはため息をついた。
「そうか。教えてくれて、助かった。ありがとう。
もう戻ってよい」
庭師は肩を落として、すごすごと部屋を出ていった。
ピレイはフェンネルのいる部屋に戻った。
その時。
寝台の上で、フェンネルが目を開けた。
「……ここは……?」
守備兵たちは、フェンネルを素早く毛布でグルグル巻きにした。
「えっ?」
キョロキョロするフェンネルを、守備兵たちは毛布ごと押さえた。
ピレイが寝台を見下ろした。
「起きたか」
フェンネルはピレイの顔を見た。
表情が強張る。
ピレイは吐き捨てるように言った。
「もう一度寝てろ」
ピレイは小箱を懐から出し、守備兵に渡すと部屋を出て行った。
「待ってください。僕は――」
部屋の扉が閉まった。
フェンネルの言葉に応える者はいない。
守備兵たちは、小箱から赤い実と小さな塊を取り出した。
赤い実を噛みながら、塊を香煙の炉に入れ火をつけた。
白い煙が、ゆっくりと広がっていく。
「ちょっと――」
言い終えることなく、フェンネルは目を閉じた。




