34. バサルク王国編(14) 迷路
※主な登場人物は、作品あらすじ欄にまとめています。
フェンネルの背中が遠ざかっていく。
――あの農薬を、誰かに飲ませるつもりなの?
フェンネルの姿が回廊の角を曲がった。
ペルラは壁に手をつきながら立ち上がった。
足がまだ震える。
つまずき、時に転びながら、急いで後を追った。
角を曲がる。
フェンネルの姿は、もうかなり先を歩いていた。
ペルラも無我夢中で、長い回廊を走った。
次の角を曲がる。
誰もいない。
「あら……?」
左右を見回した。
一方の廊下の奥に扉がある。
ペルラは歩いて、扉へ向かった。
息が切れて、もう走れなかった。
扉を開けると、狭い通路へ出た。
普段の回廊より、灯火は少なく、香煙は濃く満ちていた。
ペルラはむせた。
壁際には木箱や籠が置かれ、遠くから食器の触れ合う音が聞こえていた。
ペルラはフェンネルを目で探しながら進んだ。
王宮の客用の大回廊の間を縫うように、曲がりくねった通路を行くうちに、どちらから来たのか分からなくなった。
――迷っちゃった……。
その時、向こうから数人の使用人が歩いてきた。
盆の上には、水差しや食器が載っている。
そのうちの一人を見て、ペルラは立ち止まった。
同じ服。
さっきフェンネルが着ていたものと、よく似ている。
「……あっ!」
使用人たちも足を止めた。
ペルラは一人の服を指差した。
「同じ服を着てる!」
「……はい?」
「これです!」
ペルラは使用人の服の裾をつかむと、泣きそうな顔で言った。
使用人たちは顔を見合わせた。
「ペルラ様……?」
使用人たちは、以前この王宮で暮らしていたペルラを知っていた。
「どうしてこちらに?」
「私……」
ペルラは言いかけて、口を閉じた。
――誰にも話さないでください。
暗い荷物部屋で聞いた声が蘇る。
ミリスの顔も浮かんだ。
「言っちゃダメなんです……」
「え?」
「でも……でも、危ないんです」
ペルラの目が涙で潤んだ。
使用人たちの表情が変わった。
「何が危ないんですか?」
ペルラは首を振った。
「言えません……」
涙が流れた。
何も説明していない。
それでも、ただ事ではないことだけは十分に伝わった。
ペルラの髪は乱れ、ドレスのレースは所々ほつれていた。
落ち着きなく動かす手は擦りむけ、血が滲んでいた。
使用人の一人が通路の横の扉を開けた。
「ペルラ様。こちらへ」
蒸し暑い通路を風が通り抜けた。
「ピレイ様のところへ参りましょう」




